手の平に虹を描く。



 人前でそんなことをしてはいけないと言われたことがある。
 捕まって殺されるか、檻に入れられるそうだ。

 捕まって殺されそうになったことがある。
 檻に入れられたこともある。
 鎖に繋れていたときもあった。

 でも自分は生きている。

 今はまだ。

 呼吸を繰り返すことができる。
 もう少しだけ長く。





―――虹が見たい

 町を走り回っていたころの少女は空を仰いで願っていた。
 何度も。

 今まで叶ったことはない。
 今もまだ叶いそうにない。

 まだ空は暗いから。

 虹を臨むには闇が深すぎる。
 陽はまだ遠いから。



 手の平に虹を描く。

 空中に風と光を集める。
 川面を一筆一筆描くようにして風を置き、光を振るいながら伝わらせていく。

 虫の羽音と川のせせらぎ。
 あるいは群衆の囁き声と大群の足音。
 音たちは鼓膜を根元から震わせる。


 手の平に集まる光。
 凝縮されたチカラ。

 膨らむ、願い。



 仰向けた手の平を少女に差し出す。

 橙色が少女の耳を照らす。
 赤色が少女の頬を照らす。
 桃色が少女のまつ毛に触れる。

 青紫色が少女の瞼を照らすと、瞼は震えて開いた。
 覗いた瞳は光よりも澄んだ空色。




 ―――――……



 微かに震えた唇は声らしいものも出せず、細やかな息を吐いただけ。
 けれど確かにその瞳が望みを受けとり喉が応えた。



 キレイ――…


 唇が弓なりにあがる。
 白い歯が覗く。

 薄く開いた瞼の間から透明なものが湯気をたてて流れ落ちた。
 こめかみを伝わり耳の奥に消えた。



 青色が少女のひたいを照らす。
 導きの光に誘われて、冷たいそのひたいに唇を落とす。


 あとはただ静かに。

 自らの鼓動だけが生き物のように。

 緑色の瞳で無力な手の平をじっと見つめた。