「残念だが、リウラ様にそれをお届けすることはできない」

 商人は愕然とした。
「なぜです!?
 わたしの何がいけないのですか!?」

 ラサは哀れな商人を慰めようかと思ったが、今日だけですでに八人もの人間を慰めてきたので、やめた。
 いいかげんに疲れたから。

 この日にやってきた商人が悪いのだ。
 ラサが同情してやることもない。

 なのに、
「さぁ、気を落とさずに。また次の機会があるだろう」
 根っから人の善いラサは商人を慰めてしまい、服に涙まで擦り付けられて後悔した。

 後悔は後で悔いるものなんだと訳のわからないことで自分を励ます。





「帰したのか?」
 窓から外を眺めながら姫君が尋ねた。
「はい」

「何を持って来た?」
「七色の砂糖菓子です」
「…………」

「だめです」
「まだ何も言っていない」
「おっしゃらなくてもわかります」

「…………ラサのくせに」
「親に付けていただいた名に不満はございません」

「ラサめ」
「はい。ラサにございます」

「…………」
「…………」

 姫君は赤い頬をぷっくりと膨らませてみた。
 吹き出しそうになるのを抑え、ラサは薬湯を差し出す。

 姫君は今にも癇癪を起こしそうな顔で、けれど渋々、茶器を受け取る。

 素直でおとなしい姫君というのもありがたい。

 それというのも、姫君が甘い物の食べ過ぎで虫歯ができ、痛みのあまり家宝の神像を叩き割るという豪快な事件がお父上の耳に入ったことにある。


 かわいい末娘のしたこと。
 けれど一国の主として王はラサに「監督不行き届き」と罷免を下した。

 こんなこともあるだろうと首を洗っていたラサに対して、慌てたのは姫君。
 虫歯が治るまでわがままは言わないからと、お父上に泣きつき許しを乞うた。


 驚いたのはラサだけではない。
 お父上どころか側付き侍女たちも、神像が空から降ってはこないかと空を仰いだ。

 なんとか罷免を逃れたラサは、ここ数日、甘い菓子を献上しにきた商人たちを見送る毎日。
 姫君は恨めしげな顔で、けれど一度も「いや」という言葉がでない。


 けれどラサはやはり、わがままで聞き分けのない姫君が好きだと思う。



 いつもより蜜を大きくいれていたおかげか。
 茶器が空になるのは早かった。