イルスの手はまだ震えていた。
 目の前に座るレセリアナは慎ましく椅子に腰掛け、うつむいているとは思えないくらいの角度で視線をそらしている。相手をじろじろと観察するのは主の役目だ。
 といっても、肝心の主はレセリアナから視線をそらしていた。二人して濃い黄色の花の咲く庭を眺めている。
 無言で。

 主の前に湯気を立てるカップを置き、レセリアナのまえにも置く。そして自分の分。
 二人のあいだに挟まれるように座るのはとても勇気が言ったが、話を持ち出した本人としては逃げ出すわけにはいかなかった。レセリアナはまず辞退するだろうことを思えば、長期戦に立って臨むのは良くない。



「レセ……リアナと、いったな」
「はい、陛下」
「いくつになる?」
 いきなり年齢はまずいと思います、陛下。

「十八です」
「……聖女殿とは、どれくらい共にいた?」
「二年ほどです」
「晩年、健やかであられたか?」
「はい。病もなく、穏やかな老衰で亡くなられました」

「どのようにして出会った?」
「わたしの母が……」
 主はそれからいくつもの質問をした。
 それは必ず銀の聖女に関したものだった。同じく長寿のものとして、興味がおありなのかもしれない。

「レセリアナと、誰が名付けた?」
「伯父の話では、旅の魔導士が名付け親だそうです」
「その……魔導士の名は?」
「存じ上げません。
 伯父の話では、ふらりと現れてわたしを祝福し、名付け、去っていったそうです」
 気前のいい魔導士もいたものだ。

 レセリアナは根気強く、主の質問に答えた。
 イルスには主の質問の意図は読めない。それがどんな必要性があるのか、さっぱりわからない。おそらくレセリアナも疑問に思いながら答えているだろう。

 いくつもの問いかけのあと。
「レセリアナ。春陽と祝福の乙女はなんだ?」
「え? ……あの……ナラト、ニアと…………」
「春陽の乙女はレセーニアだ。銀の聖女殿の名は知っているか?」
「レセナート様です」
「彼女は春に生まれた。だから春陽と祝福の乙女から名をいただいた」
「……え?」

「おまえは……おまえの名は、誰が付けたのだろう……?
 神々の御名から名をいただくには一定の法則がある。『レセリアナ』は見事にその法則に則っている。

 『レセ』は同じく春陽の乙女から。
 『リアナ』は転じてアリ・ナ。つまり風の女神だ。
 魔導士は、彼女が風の魔導士だと知り、おまえがその子孫だと知った上で名付けたのだろう」
 イルスとレセリアナは二人して主を見つめた。

「これが風の女神と祝福の乙女からいただいた名であれば、法則から外れる。
 火の女神と情愛の乙女は良い。
 水の女神と春陽の乙女は外れる。
 風の女神と切先の乙女は良い。
 土の女神と灼熱の乙女は外れる。

 イルス。おまえはこれらの法則を知っているか?」
「い、いいえっ。初めてお聞きしました」
「わたしも知らなかった。
 魔導士という人々と接し、親密に会話し、偶然にもこういった法則があることを知った。それでもわたしが知るのは一部分だけだ」