宰相の説得から横道に逸れたが、二人は忘れたわけではなかった。
「そこでだスティード」
「人を呼びつけておいていきなり何です?」
「先日のことで、陛下も誓約者だということがわかった」
「はぁ」
 まぁ座れ、とイルスは向かいの椅子をスティードに勧める。

「宰相さまは反対されたが、陛下に許可をいただけば、すべてがうまく運ぶと思う」
「あぁ、そうですね。陛下も神官長……いえ、現時点では、陛下が正当な誓約者ですよね」
「そうだ。わたしより説得力もおありになる」
 スティードはうなずいた。なんて失敬なやつだ。

「だからって、陛下が反対されたら一から練り直しですよ」
「やってみる価値はある。
 いろいろ調べてみたが、我が国が最後に侵略しようとした国は、おまえの隣国だ。当時、その二国は同盟を組んでいたそうだぞ」
「マジですか? じゃぁもし侵略が成功してたら、うちまでやられてたかもしれないんですね」
「そうだ」
「うわー。それじゃもしかすると、俺は閣下の奴隷になってたかもしれないんですね」
「そう……だ」
 こんな奴隷はいらないと、イルスは正直に思った。

「直接ではないにしろ、陛下もおまえの国に関わったことがおありになると思う。百年前といえば、まだ聖女殿が『聖女』ではなかったはずだが……」
「俺の記憶では、聖女様が王妃になられたのは百年以上まえで、『聖女』と呼ばれるようになったのは、ご夫君が亡くなられてからだから……五十年、くらいまえです」

「亡くなられたのは先年だったな」
「五、六年まえです」
 つまり銀の聖女も、百年ほど生きたことになる。
「長く生きたもの同士、なんらかの接点があると思う」
「そうあってくれるとありがたいです」



「ちなみに、おまえは聖女殿にお会いしたことがあるのか?」
「はい」
 それは意外だ。

「亡くなるちょっと前から、聖女様は俺の実家の近くに住んでいらしたんです。もうお年でしたし、田舎でゆっくりしたかったとか。
 あ、俺の父は商人なんです。
 小物と酒を扱ってて、ときどき俺もお供でお屋敷に行きました。そのときから、聖女様は声をかけてくださって。
 優しい方でした」

「……レセリアナと、似ていたか?」
「いいえ。さすがにレセは老婆には見えませんよ。
 でも、見習いにあがって、一度だけお城に行ったことがあるんです。聖女様が王妃でいらした頃の絵姿がありました。当時の国王と並んでいるやつ」

 スティードは苦笑いした。

「嫌になるくらい、レセに似ていました」