普段、陛下、陛下とお呼びしているせいだろうか。
イルスは主の正式名を知ってはいるが、すぐには思い出せないでした。
なんて不敬な!!
何度も耳にしたことがあるはずなのに。書物でも何度も何度も目にしたのに。
忘れていたなんて!!
ガーラルゥズ・イズルム・イクシアム・オルゥ・ダーナ・カフィダーナ。
長すぎて、どこで切ればいいのか小さい頃はわからなかった。もしかしたら前半全部が名で、カフィダーナだけが家名だろうかなんて大胆なことを思ったこともある。
「必要以上に長いとは、わたしも思っている」
主の慰めはありがたくいただくことにした。
「でも……あの……わたくしごときが、縁者などと。……た、他人の空似、とか……」
「わたしも最初はそうだろうと思った。だが系譜を紐解けば、突き当たってしまったのだ」
当たってしまったんですね。
「私自身は子がいない。だが確実に、妹の血は他家で受け継がれていた」
ちなみに、『ガーラルゥズ・イズルム・イクシアム』が名。
『オルゥ・ダーナ』が神官長の、『カフィダーナ』が皇族としての家名になる。
平時は『イクシアム・カフィダーナ』で済まされるものだから、正式名を知らない人だって多い。
初めて聞いたらしいスティードが何度も舌を噛みそうになっているのが証拠だ。
ガーラズイズイズダーナカカダーナ、ガラーズライズイズオラコンフェ……かなり苦戦しているようだ。
「あの……質問です」
暗誦に疲れたのか中断して、スティードが礼儀正しく手を上げた。
「どうしてそれがじゅう……十一年前なんでしょうか? 生まれたときでも良かったと思いますが?」
「この国では昔、十五が成人の歳だった。
炎の精霊の話では、その歳になるまでは容易に誓約を成してはならないと言うとりきめがあるらしい」
「……精霊の、とりきめ……?」
「わたしも精霊ではないので、詳しくは話せない」
ごもっともです。
「人間と精霊とが共存するため、両者は互いに話し合いの場を持ち、こういったとりきめをいくつか設けている。……と、ハッサム殿から聞いている」
さすがは魔導士。話し合いの場に出たことがあると聞かされても、イルスはもう驚かないかもしれない。
次々と告げられることにイルスの頭は破裂しそうだった。
目の前の尊い人が自分のご先祖様で、自分は聖剣に認められ、昔は双子の美少年で、聖剣には精霊が棲みついていて、容易に精霊だととりきめてはならない?
自分は生まれつき人間だ!───イルスは叫びそうになった。
頭を抱えて座り込んだイルスに声が降りかかる。
「わたしはおまえに、神官長の座を渡したいと思う。だがこれは命令ではない。
ただ……わたしの願いだ」
主の声は低く静かで、聞くものの気持ちを穏やかにさせる。
同時にイルスは思った。
この人の声は、少しだけ悲しく響くのだと。
主の私室から出ると、二人は肩を落として歩き出した。
いつもは颯爽と歩き、その足音もさわやかな音を奏でるはずなのに、今はぼてて、ずるぅり、ぺったん、である。
「スティード」
「はい」
「…………」
「…………」
「呑むか」
「はい」
スティードが国から持参した酒は口に合った。全体的に甘いのに、ピリッとした辛味がある。
「親父の倉庫からこっそりいただいたんです。タダ酒ですよ。好きなだけ飲んでください!」
それは盗んだというやつだな。
翌日イルスは「お体を大事にしてください」と、スティードは「閣下になんてことを!」とレセリアナから怒られることも知らず、二人は大いに自棄酒した。
イルスは主の正式名を知ってはいるが、すぐには思い出せないでした。
なんて不敬な!!
何度も耳にしたことがあるはずなのに。書物でも何度も何度も目にしたのに。
忘れていたなんて!!
ガーラルゥズ・イズルム・イクシアム・オルゥ・ダーナ・カフィダーナ。
長すぎて、どこで切ればいいのか小さい頃はわからなかった。もしかしたら前半全部が名で、カフィダーナだけが家名だろうかなんて大胆なことを思ったこともある。
「必要以上に長いとは、わたしも思っている」
主の慰めはありがたくいただくことにした。
「でも……あの……わたくしごときが、縁者などと。……た、他人の空似、とか……」
「わたしも最初はそうだろうと思った。だが系譜を紐解けば、突き当たってしまったのだ」
当たってしまったんですね。
「私自身は子がいない。だが確実に、妹の血は他家で受け継がれていた」
ちなみに、『ガーラルゥズ・イズルム・イクシアム』が名。
『オルゥ・ダーナ』が神官長の、『カフィダーナ』が皇族としての家名になる。
平時は『イクシアム・カフィダーナ』で済まされるものだから、正式名を知らない人だって多い。
初めて聞いたらしいスティードが何度も舌を噛みそうになっているのが証拠だ。
ガーラズイズイズダーナカカダーナ、ガラーズライズイズオラコンフェ……かなり苦戦しているようだ。
「あの……質問です」
暗誦に疲れたのか中断して、スティードが礼儀正しく手を上げた。
「どうしてそれがじゅう……十一年前なんでしょうか? 生まれたときでも良かったと思いますが?」
「この国では昔、十五が成人の歳だった。
炎の精霊の話では、その歳になるまでは容易に誓約を成してはならないと言うとりきめがあるらしい」
「……精霊の、とりきめ……?」
「わたしも精霊ではないので、詳しくは話せない」
ごもっともです。
「人間と精霊とが共存するため、両者は互いに話し合いの場を持ち、こういったとりきめをいくつか設けている。……と、ハッサム殿から聞いている」
さすがは魔導士。話し合いの場に出たことがあると聞かされても、イルスはもう驚かないかもしれない。
次々と告げられることにイルスの頭は破裂しそうだった。
目の前の尊い人が自分のご先祖様で、自分は聖剣に認められ、昔は双子の美少年で、聖剣には精霊が棲みついていて、容易に精霊だととりきめてはならない?
自分は生まれつき人間だ!───イルスは叫びそうになった。
頭を抱えて座り込んだイルスに声が降りかかる。
「わたしはおまえに、神官長の座を渡したいと思う。だがこれは命令ではない。
ただ……わたしの願いだ」
主の声は低く静かで、聞くものの気持ちを穏やかにさせる。
同時にイルスは思った。
この人の声は、少しだけ悲しく響くのだと。
主の私室から出ると、二人は肩を落として歩き出した。
いつもは颯爽と歩き、その足音もさわやかな音を奏でるはずなのに、今はぼてて、ずるぅり、ぺったん、である。
「スティード」
「はい」
「…………」
「…………」
「呑むか」
「はい」
スティードが国から持参した酒は口に合った。全体的に甘いのに、ピリッとした辛味がある。
「親父の倉庫からこっそりいただいたんです。タダ酒ですよ。好きなだけ飲んでください!」
それは盗んだというやつだな。
翌日イルスは「お体を大事にしてください」と、スティードは「閣下になんてことを!」とレセリアナから怒られることも知らず、二人は大いに自棄酒した。