それは、在位百年を迎えた年だった。
 聖剣が淡い熱を発し、同じ言葉を繰り返し出した。かと思うとその身から一筋の光を走らせた。

「ハッサム殿の調べにより、光はある家にたどりつき、一人の少年の周りを走って消えたそうだ」
「え……」
 嫌な予感におもわず立ち上がったイルスを、主は微笑んで見上げた。

「まだその頃、パーシィクの名だったな」

 少年は十五歳だった。
 もう大人といっていいくらい姿は出来上がっていた。だが親から引き離すにはまだ早いと思った。

 しばらく、パーシィクという名の少年を遠くから見守った。
 その心根はどうか───計らなければならなかった。聖剣の主として本当にふさわしいのか、人間の目からも認めなければならない。それが神官長の役目。

「二年前、おまえを宰相補佐に抜擢するとき、周囲の反対は確かにあった。だが聖剣を渡すには、領主の息子というだけでは弱すぎた。
 その力をあまりに遠くに置いておいては、神官長としての役目が果たせないばかりか……暴走したときには間に合わないだろう」

「暴走するのですか?」
 質問したのはスティードだった。
「過去に、何例かある。剣の所有者のなかには、剣に溺れるものもいた」
「止める方法は神官長にしか」
「そうだ」

「それでしたら、神官長を新たに任命するほうが先ではありませんか?」
 主は頷いた。
「良い質問だ。
 聖剣は主を選ぶ。さらに、主不在の間、自分の保管場所も選ぶ」
 スティードが奇声をあげる。
「ギィエ! チョーわがまま!」
 聖皇帝の前で……。

「神官長を務めていらっしゃるということは、陛下は剣の精霊の声が聞こえるんですか?」
「そうだ。ときおりだが、聞こえる。
 もともとわたしは、神官長の一族の出だ。選ばれることに血縁が関係し、なおかつ精霊が英雄王の血を感じることができるのなら、わたしに声が聞こえる可能性は大きい」

「血というと……それでは、英雄王と神官長には血縁関係があったのですか?」
「英雄王の弟が最初の剣の神官長となった。その後も何度か婚姻関係がある。
 わたしは偶然、血が濃かったのかもしれん。
 だがこの百年、ほかに聞こえるものは見つからなかった」

 主の視線がイルスに向けられる。
 いつになく優しい眼差し。
「おまえが現れたとき、夢かと思った」
「…………」

「百余年前、わたしにはまだ身内がいた。弟妹と、その子どもたち。
 妹は嫁いでからなかなか会わなかったが、よく覚えている。
 愛らしい甥がいた。双子だった。
 どちらも成長してもかわいらしくて、よくも欲情に溺れなかったものだと感心した」

「陛下……」
 宰相の控えめな窘めに、主は苦笑した。
「あぁ、悪い。おまえをそういう目で見ているわけではない。ただ、双子の甥たちはよく、周囲のものから言い寄られていたのでな」
 それならイルスにも身に覚えがある。

 はたと気づく。

「…………………………え?」
「それじゃぁ……」
 スティードが一歩後退。
「わ……わたしは…………」
「陛下の? え? ウソ! え? マジ!?」
 聖皇帝の前で……。

 主は真摯な眼差しで頷かれた。

「おまえは、わたしの子孫にあたる」