マサナオは人が良くて、良すぎて。
時々哀れになるくらい温厚で。
「それだけ?」
マキの一言には堪えた。
「たぶんね」
「優しいだけの男じゃねー」
ふふん、とマキは鼻で笑う。
あんたの彼氏どうなの、という定番の話から、どこがいいのか発表会になるまで一時間三五分。
その間、違う話題に飛んだ数、九回。
一度は注文したマンゴーパフェがご登場したための品評会だから当然だとしても、ちょっと飛びすぎたかもしれない。
でも本当にマサナオは優しい。
誰にでも。
「あたしだけじゃなきゃ嫌なの!
って、言ってみれば?」
「言った」
「それで?」
「好きなのはおまえだけだよ」
「それで変わった?」
「ぜんぜん」
マサナオには浮気という概念はない。
それくらいわかる。
でも誰かに優しくしてるところを見たり、聞いたりすると当然、嫌になる。
嫉妬深いなんて思われたくないけど、嫌なものは嫌。
そういって突っかかった数、半年と一ヶ月で五二回。
その結果、謝られた数、五二回。
さらにその結果、許しちゃった数、五二回。
「だいたいさー、ユッキーとマサナオってバランス悪い」
「どこが?」
「ユッキーはどっちかってぇとお姉さんタイプの美人なのよ。でもマサナオって、ホラ、純情スポーツマン的平凡青年なわけよ」
「ふーん」
「釣り合わなーい。……って、思ったことない」
「ない」
「なんで?」
「何でって、何で?」
「あたしにはもっとこう、お金持ちのインテリ好青年が似合うのにー! って思ったことない?」
「ない」
マキはがっくりと首を折る。
昔からご近所のみなさんにカワイイと言われ、小学校あたりまでは「カワイイ」だった。
中学生ごろから「キレイ」に変わった。
でも鏡に映る自分は自分以外の何者でもない。
成長しようが太ろうが痩せようが、ニキビができようが自分は自分。
ファッションは言われてみればお姉さん系かもしれない。
ひらひらしたものより体にフィットするシンプルなものが好き。
動きやすくしておかないと、いきなりデートコースを変更するマサナオには着いていけない。
それでも会うのが夕方以降ならお気に入りのマーメイドタイプのスカートも履く。
ちょっとフリルがついてたりすると、マサナオは喜ぶ。
「もったいなーい」
「なにが?」
「あんたが?」
「どうして?」
「びしっとスーツ来た実業化とか、白衣の似合うお医者さんとかと出会いたくないの?」
「……叔父は医者だけど」
髭面のもさもさ頭だ。
ついでに年中裸足で、叔母によく叱られている。
どうやら、三ヶ月ぶりにリアルであった友人は男を紹介しようとしていたらしい。
メールでは「彼氏できちゃった」なんて言わなかったせいだろう。
前彼と別れた三年前から、「彼氏ほしい」発言もしなかった気がする。
「いー感じなのよぉ」
「ふーん」
「お父さんの仕事手伝ってて、ゆくゆくは社長さんなの。おっきい会社じゃないけどぉ、そこそこお金もあるしぃ」
「ふーん」
「顔もけっこうイケててね。眉毛がちょっと太いかなぁって思うけど、気になんないくらいなの」
「ふーん」
「今までは年上とばっかり付き合ってきたけど、年下もいいなぁ、とか思ってるんだってっ」
「ふーん」
「…………。ユゥキィィ!」
「そんなにいいならマキ付き合えばいいじゃん」
「あたしはコウたんだけよ!」
五年越しの恋は熱い。
「ね、ユッキー。会うだけでも!」
「会ってどうするの?」
「お茶飲んだり、映画いったり、ご飯食べ言ったり、カラオケでもいいからぁ!」
「なんでそんな一生懸命なの?」
「見え張っちゃったんだもん!!」
マキは正直者だ。
でもユキエにしてみれば、これからのスケジュールを変えるつもりはない。
そう思いつつ、腕時計を見る。
約束の時間を十三分オーバー。
珍しい。待つことはあっても絶対に待たせないマサナオが、遅刻するなんて。
周囲をきょろきょろと見渡し、マキに「どうしたの?」と聞かれても生返事。
やっと視界に彼を見つけたとき、約束の時間から十七分オーバーになっていた。
「ごめん。待たせて」
遅れたのはマサナオ。約束の時間を決めたのもマサナオ。
言い訳はしないのもマサナオ。
「あー、マサナオ君、おひさー」
「あ…………マキ、ちゃん。久しぶり」
名前を忘れていたな、マサナオ。
「あ、ユキ」
「ん?」
「髪、色変えた?」
「え、ウッソ」
お気に入りのチョコブラウンを昨日、オレンジブラウンに変えた。このほうが明るくて軽く見える。
「ヘン?」
「似合ってる」
「おれ、オレンジペコ。……ミルクも」
通りかかった店員に注文して、マサナオはユキエの隣に座る。
昔話をしていると、すぐにオレンジペコがやってくる。
マサナオはコーヒーにも紅茶にもミルクは入れない。
ミルクを入れてかき混ぜられるオレンジペコは、色に渋みを増す。
ホラ、とマサナオは言った。
「ユキの髪といっしょ」
笑う顔はにっこり爽やか。
マキの言うとおり、純情スポーツマン的平凡青年の笑顔。
でも中身はけっこう繊細なのですよ、マキさん。
「マキ、やっぱり断って」
「えぇ! ユッキーぃ」
「だぁめ。
だってね、ホラ」
ミルク入りオレンジペコを一息に飲むマサナオを指差す。
指を指されて、きょとんとするマサナオ。
「あたしはもうマサナオに飲まれちゃってるから」
ゴチソウサマデシタ。
定番のセリフとともに友人が去るのに、一分はかからなかった。
時々哀れになるくらい温厚で。
「それだけ?」
マキの一言には堪えた。
「たぶんね」
「優しいだけの男じゃねー」
ふふん、とマキは鼻で笑う。
あんたの彼氏どうなの、という定番の話から、どこがいいのか発表会になるまで一時間三五分。
その間、違う話題に飛んだ数、九回。
一度は注文したマンゴーパフェがご登場したための品評会だから当然だとしても、ちょっと飛びすぎたかもしれない。
でも本当にマサナオは優しい。
誰にでも。
「あたしだけじゃなきゃ嫌なの!
って、言ってみれば?」
「言った」
「それで?」
「好きなのはおまえだけだよ」
「それで変わった?」
「ぜんぜん」
マサナオには浮気という概念はない。
それくらいわかる。
でも誰かに優しくしてるところを見たり、聞いたりすると当然、嫌になる。
嫉妬深いなんて思われたくないけど、嫌なものは嫌。
そういって突っかかった数、半年と一ヶ月で五二回。
その結果、謝られた数、五二回。
さらにその結果、許しちゃった数、五二回。
「だいたいさー、ユッキーとマサナオってバランス悪い」
「どこが?」
「ユッキーはどっちかってぇとお姉さんタイプの美人なのよ。でもマサナオって、ホラ、純情スポーツマン的平凡青年なわけよ」
「ふーん」
「釣り合わなーい。……って、思ったことない」
「ない」
「なんで?」
「何でって、何で?」
「あたしにはもっとこう、お金持ちのインテリ好青年が似合うのにー! って思ったことない?」
「ない」
マキはがっくりと首を折る。
昔からご近所のみなさんにカワイイと言われ、小学校あたりまでは「カワイイ」だった。
中学生ごろから「キレイ」に変わった。
でも鏡に映る自分は自分以外の何者でもない。
成長しようが太ろうが痩せようが、ニキビができようが自分は自分。
ファッションは言われてみればお姉さん系かもしれない。
ひらひらしたものより体にフィットするシンプルなものが好き。
動きやすくしておかないと、いきなりデートコースを変更するマサナオには着いていけない。
それでも会うのが夕方以降ならお気に入りのマーメイドタイプのスカートも履く。
ちょっとフリルがついてたりすると、マサナオは喜ぶ。
「もったいなーい」
「なにが?」
「あんたが?」
「どうして?」
「びしっとスーツ来た実業化とか、白衣の似合うお医者さんとかと出会いたくないの?」
「……叔父は医者だけど」
髭面のもさもさ頭だ。
ついでに年中裸足で、叔母によく叱られている。
どうやら、三ヶ月ぶりにリアルであった友人は男を紹介しようとしていたらしい。
メールでは「彼氏できちゃった」なんて言わなかったせいだろう。
前彼と別れた三年前から、「彼氏ほしい」発言もしなかった気がする。
「いー感じなのよぉ」
「ふーん」
「お父さんの仕事手伝ってて、ゆくゆくは社長さんなの。おっきい会社じゃないけどぉ、そこそこお金もあるしぃ」
「ふーん」
「顔もけっこうイケててね。眉毛がちょっと太いかなぁって思うけど、気になんないくらいなの」
「ふーん」
「今までは年上とばっかり付き合ってきたけど、年下もいいなぁ、とか思ってるんだってっ」
「ふーん」
「…………。ユゥキィィ!」
「そんなにいいならマキ付き合えばいいじゃん」
「あたしはコウたんだけよ!」
五年越しの恋は熱い。
「ね、ユッキー。会うだけでも!」
「会ってどうするの?」
「お茶飲んだり、映画いったり、ご飯食べ言ったり、カラオケでもいいからぁ!」
「なんでそんな一生懸命なの?」
「見え張っちゃったんだもん!!」
マキは正直者だ。
でもユキエにしてみれば、これからのスケジュールを変えるつもりはない。
そう思いつつ、腕時計を見る。
約束の時間を十三分オーバー。
珍しい。待つことはあっても絶対に待たせないマサナオが、遅刻するなんて。
周囲をきょろきょろと見渡し、マキに「どうしたの?」と聞かれても生返事。
やっと視界に彼を見つけたとき、約束の時間から十七分オーバーになっていた。
「ごめん。待たせて」
遅れたのはマサナオ。約束の時間を決めたのもマサナオ。
言い訳はしないのもマサナオ。
「あー、マサナオ君、おひさー」
「あ…………マキ、ちゃん。久しぶり」
名前を忘れていたな、マサナオ。
「あ、ユキ」
「ん?」
「髪、色変えた?」
「え、ウッソ」
お気に入りのチョコブラウンを昨日、オレンジブラウンに変えた。このほうが明るくて軽く見える。
「ヘン?」
「似合ってる」
「おれ、オレンジペコ。……ミルクも」
通りかかった店員に注文して、マサナオはユキエの隣に座る。
昔話をしていると、すぐにオレンジペコがやってくる。
マサナオはコーヒーにも紅茶にもミルクは入れない。
ミルクを入れてかき混ぜられるオレンジペコは、色に渋みを増す。
ホラ、とマサナオは言った。
「ユキの髪といっしょ」
笑う顔はにっこり爽やか。
マキの言うとおり、純情スポーツマン的平凡青年の笑顔。
でも中身はけっこう繊細なのですよ、マキさん。
「マキ、やっぱり断って」
「えぇ! ユッキーぃ」
「だぁめ。
だってね、ホラ」
ミルク入りオレンジペコを一息に飲むマサナオを指差す。
指を指されて、きょとんとするマサナオ。
「あたしはもうマサナオに飲まれちゃってるから」
ゴチソウサマデシタ。
定番のセリフとともに友人が去るのに、一分はかからなかった。