「聖剣だ」
「……せいけん?」
「聖剣がおまえを選んだのだ、イルス」
「……えらんだ? 宰相閣下。他国人の俺にはよくわかりません」
イルスにだってわからない。
「…………。よろしい。陛下から直接お話しいただこう」
イルスとスティードは、夕食後に宰相の下へ来るよう言いつけられ、退室した。
いまだ呆然とするイルスと、頭に疑問符をつけたスティードが並んで歩く姿を人々は遠巻きに見つめる。無防備な宰相補佐閣下と、苦悩する若手剣士に見えたらしい。
鉛を食べるような気持ちで夕食を終えると、スティードと掛け声もなく立ち上がった。
「レセ。ちょっと閣下と呑みに行ってくる」
彼女のためにと思って行動した先で二人が別の問題にぶち当たったなんて、彼女に知られてはいけない。
「遅くなって、わたしの屋敷に泊まり込むかもしれない。心配しなくていい」
「はい。行ってらっしゃいませ」
素直なレセリアナは二人を笑顔で見送ってくれた。
イルスたちが宰相に連れられて向かった先は、あの恐ろしい部屋だった。
いや、部屋に罪はない。だがイルスが踊り子のような伝統衣装で誰かの嫌がらせにはまろうとしたあの部屋だ。
そういえば、主のお召しなんて、誰が言ったのだろう……?
謎のままだ。
主は少々不安げな表情だった。宰相がうっかり口を滑らせてしまったことに気を悪くしているのかもしれない。当の宰相は小さく肩を縮めている。
許しを得て席につくと、不気味な沈黙が落ちた。
「で、どういうお話でしょうか? お聞かせ願えますね?」
スティードは肝が据わっている。さすがに椅子に座るのは遠慮しているが、世界に名だたる聖皇帝を前に少しも恐れを見せていない。
口を開こうとした宰相を、主は手で制した。
「わたしが話そう。……わたしが言い出したことだ」
かつて、奴隷から皇帝まで登りつめた男を、人々は英雄王と称する。
その彼の愛剣は聖剣として称えられ、英雄王亡き後も歴代のダーナ神官長らが管理してきた。
聖剣は主を選ぶ───
英雄王から現在まで、聖剣を鞘から抜き放った者は数少ない。剣に認められない限り、所有者として認められない。
なぜならば、聖剣には精霊が棲んでいた。
「せいれい?」
「小さな炎の精霊だ。最初の主である英雄王を基準に、自分の主にふさわしいかを判断しているようなのだ。
そしてその声を聞くことができるものなら、聖剣を抜く可能性がある」
「……せいけん?」
「聖剣がおまえを選んだのだ、イルス」
「……えらんだ? 宰相閣下。他国人の俺にはよくわかりません」
イルスにだってわからない。
「…………。よろしい。陛下から直接お話しいただこう」
イルスとスティードは、夕食後に宰相の下へ来るよう言いつけられ、退室した。
いまだ呆然とするイルスと、頭に疑問符をつけたスティードが並んで歩く姿を人々は遠巻きに見つめる。無防備な宰相補佐閣下と、苦悩する若手剣士に見えたらしい。
鉛を食べるような気持ちで夕食を終えると、スティードと掛け声もなく立ち上がった。
「レセ。ちょっと閣下と呑みに行ってくる」
彼女のためにと思って行動した先で二人が別の問題にぶち当たったなんて、彼女に知られてはいけない。
「遅くなって、わたしの屋敷に泊まり込むかもしれない。心配しなくていい」
「はい。行ってらっしゃいませ」
素直なレセリアナは二人を笑顔で見送ってくれた。
イルスたちが宰相に連れられて向かった先は、あの恐ろしい部屋だった。
いや、部屋に罪はない。だがイルスが踊り子のような伝統衣装で誰かの嫌がらせにはまろうとしたあの部屋だ。
そういえば、主のお召しなんて、誰が言ったのだろう……?
謎のままだ。
主は少々不安げな表情だった。宰相がうっかり口を滑らせてしまったことに気を悪くしているのかもしれない。当の宰相は小さく肩を縮めている。
許しを得て席につくと、不気味な沈黙が落ちた。
「で、どういうお話でしょうか? お聞かせ願えますね?」
スティードは肝が据わっている。さすがに椅子に座るのは遠慮しているが、世界に名だたる聖皇帝を前に少しも恐れを見せていない。
口を開こうとした宰相を、主は手で制した。
「わたしが話そう。……わたしが言い出したことだ」
かつて、奴隷から皇帝まで登りつめた男を、人々は英雄王と称する。
その彼の愛剣は聖剣として称えられ、英雄王亡き後も歴代のダーナ神官長らが管理してきた。
聖剣は主を選ぶ───
英雄王から現在まで、聖剣を鞘から抜き放った者は数少ない。剣に認められない限り、所有者として認められない。
なぜならば、聖剣には精霊が棲んでいた。
「せいれい?」
「小さな炎の精霊だ。最初の主である英雄王を基準に、自分の主にふさわしいかを判断しているようなのだ。
そしてその声を聞くことができるものなら、聖剣を抜く可能性がある」