「あんな兄など、捨ててしまってもいいと思わないか?」
イルスは憤慨していた。
レセリアナはまだ十八歳だ。やっと大人として認められたばかりの、まだ子どもの部分が抜けきらない少女だ。
そんな少女に対して人質をとり、銀髪の子どもを産むためだけに結婚させようなど、たとえ王であろうとそれはもう人のすることではない。王道どころか人道に反する。
老人も悲しそうに眉を曲げていた。
「聖女殿の子孫ですか……。不憫な。
若。銀の聖女殿は王にぜひにと望まれ、正室であることを拒みながらも王を愛した人です。潔く、高潔でありました。
そんな人の子孫が悲しい思いをしているのなら、ぜひ手を差し伸べるべきです」
うむ、とイルスは頷いた。もちろんそうするつもりだ。
だが相手が悪い。
「たとえばだ、じい。彼女をここに留めておくことはできないか?」
「そうですな……このようなことではいかがでしょう?
レセリアナ殿は当国の流行り病にかかり、しばらく養生が必要だと言うのです。その病は、こちらでは命に別状がなくとも、別の土地に持ち込むとどんな症状をもたらすかわからないものということにするのです。
いっかな王であろうと、病を国内に入れては外聞が悪うございます。
もちろんそれは、留学期間終了間際がよろしいでしょう」
イルスは何度もうなずいた。
「よし。宰相様に相談してくる。人気のない養生先と、それから口の堅い忠実な者がいるな」
「スティード殿にもお話してみるべきでしょう」
「そうだな。彼女を取るか、騎士を取るかだな」
思い立ったらイルスの行動は早い。
まずスティードに話した。
「あのおしゃべりっ」
彼は苦しそうな表情で吐き捨てた。口では悪態しか出てこないが、彼女が誰かに悩みを打ち明けたことに多少安堵はしているようだ。
「正直、そうしてもらえると助かります。でも、国家間の問題になりませんか? ありがたくはありますが、閣下たちに迷惑をかけても、あいつは喜びません」
レセリアナと違い、スティードとは多少砕けた会話ができるようになった。やはり歳が近く、彼の根性が据わっているからだろう。
「こんなことを言うのもなんだが、スティード。当国は今でも軍国と言われるだけの力はあるんだ」
あぁあ、と彼はため息をついた。
「そうだった。忘れてましたよ閣下。陛下の補佐が宰相だと、どうしても忘れますね」
イルスの上司でもある宰相は、若いとき一時的に武官だったが、その後文官に転向し、現在の地位を得ている。
これは当国では良くあることで、宮廷での地位を得るためには必ず武官経験が必要とされる。それほどの軍力があり、把握が必要なのだ。
昔ほどではないが領地は広く、その大半が荒野。盗賊団や自然災害が多く、人手は多いほど良かった。昔は侵略を繰り返すために軍事力を保持していたが、今では自衛のためだ。
それが事実であり、留学制度が安全なものであることを理解させるには、長い時間が必要だった。いったい、主はどんな魔法を使ったのだろうかと、イルスはいつも思う。
イルスは憤慨していた。
レセリアナはまだ十八歳だ。やっと大人として認められたばかりの、まだ子どもの部分が抜けきらない少女だ。
そんな少女に対して人質をとり、銀髪の子どもを産むためだけに結婚させようなど、たとえ王であろうとそれはもう人のすることではない。王道どころか人道に反する。
老人も悲しそうに眉を曲げていた。
「聖女殿の子孫ですか……。不憫な。
若。銀の聖女殿は王にぜひにと望まれ、正室であることを拒みながらも王を愛した人です。潔く、高潔でありました。
そんな人の子孫が悲しい思いをしているのなら、ぜひ手を差し伸べるべきです」
うむ、とイルスは頷いた。もちろんそうするつもりだ。
だが相手が悪い。
「たとえばだ、じい。彼女をここに留めておくことはできないか?」
「そうですな……このようなことではいかがでしょう?
レセリアナ殿は当国の流行り病にかかり、しばらく養生が必要だと言うのです。その病は、こちらでは命に別状がなくとも、別の土地に持ち込むとどんな症状をもたらすかわからないものということにするのです。
いっかな王であろうと、病を国内に入れては外聞が悪うございます。
もちろんそれは、留学期間終了間際がよろしいでしょう」
イルスは何度もうなずいた。
「よし。宰相様に相談してくる。人気のない養生先と、それから口の堅い忠実な者がいるな」
「スティード殿にもお話してみるべきでしょう」
「そうだな。彼女を取るか、騎士を取るかだな」
思い立ったらイルスの行動は早い。
まずスティードに話した。
「あのおしゃべりっ」
彼は苦しそうな表情で吐き捨てた。口では悪態しか出てこないが、彼女が誰かに悩みを打ち明けたことに多少安堵はしているようだ。
「正直、そうしてもらえると助かります。でも、国家間の問題になりませんか? ありがたくはありますが、閣下たちに迷惑をかけても、あいつは喜びません」
レセリアナと違い、スティードとは多少砕けた会話ができるようになった。やはり歳が近く、彼の根性が据わっているからだろう。
「こんなことを言うのもなんだが、スティード。当国は今でも軍国と言われるだけの力はあるんだ」
あぁあ、と彼はため息をついた。
「そうだった。忘れてましたよ閣下。陛下の補佐が宰相だと、どうしても忘れますね」
イルスの上司でもある宰相は、若いとき一時的に武官だったが、その後文官に転向し、現在の地位を得ている。
これは当国では良くあることで、宮廷での地位を得るためには必ず武官経験が必要とされる。それほどの軍力があり、把握が必要なのだ。
昔ほどではないが領地は広く、その大半が荒野。盗賊団や自然災害が多く、人手は多いほど良かった。昔は侵略を繰り返すために軍事力を保持していたが、今では自衛のためだ。
それが事実であり、留学制度が安全なものであることを理解させるには、長い時間が必要だった。いったい、主はどんな魔法を使ったのだろうかと、イルスはいつも思う。