「悪かった。……何か、質問が悪かったようだ」
 青い顔のレセリアナは首を振った。
「いいえ。私自身の問題なんだと思います。
 閣下。…………わたしは、王族の血を引きながら一族のものではなく、でも母の家では、わたしは王族の一人なんです。そう思われると、わたしも誰とも気安げに話したり、付き合ったりして良いのか、わからないんです」

「───閣下。閣下は、『銀の聖女』をご存知ですか?」
「あぁ、もちろん。君の国で有名な方だろう? 数代まえの王妃でもあり、魔導士だとかいう」
「わたしは母を亡くしてからの数年間、聖女様のもとにいました」
「……え?」
「あの人が『銀の聖女』と呼ばれるのは、美しい銀色の髪が由縁です」
 イルスはまじまじとレセリアナの髪を見た。見事な銀髪だ。

「君は……」
「サース国ではスティードのように濃い茶色か、黒い髪が一般的です。もちろん、王族もそうでした。
 でも聖女様の血が混じってからは、あの人と同じ銀髪の子がときおり生まれるようになったそうです。
 今はわたしのほかにあの人の銀髪を受け継いだものはいません。だから兄は、わたしを引き取ったのです。

 聖女様は剣士であり、魔導士であり、知恵者であられました。数代のサース国王らは、あの人に頼り切っていたのです。
 そして聖女様が亡くなって、その庇護まで失ったことを兄は恐れました。

 聖女様はわたしが、国を出て静かに暮らせるようにといろんなことを教えてくださいました。でも、恐らくそれがあだになりました。
 聖女様が亡くなって、その庇護を受けていたわたしを兄は見つけました。わたしが聖女様から剣術を習っていたことを知り、兄はわたしをそばに置きました。

 そして剣士であり、知恵者にするため───第二の聖女にするためにこの留学を命じたのです」

「……なぜ、嫌だと言わなかった?」
 レセリアナは悲しそうに微笑んだ。
「閣下。わたしの兄は王です。彼の命令は王命です。従わなければ反逆者とみなされます。
 わたし一人が罰を受けるのはかまいません。でも兄は、母の実家に目をつけていたのです」
「なっ! か……彼は、サース国王は……本当に、王か?」
 驚くイルスに、レセリアナは悲しい現実を返した。
「残念なことに」

 二人は沈黙した。
 楽しかった気分がどこか遠くへ連れ去られてしまった。
 最初は何の話をしていたのだろう? そうだ。結婚だ。レセリアナにとって、結婚とはどんなものだろうかと、イルスが気軽に尋ねたのだ。

「……。答えたくないのなら、答えなくてもいい。レセリアナ。おまえにとって、結婚とはどんなものだ?」
 彼女は歳に似合わない自嘲の笑みを浮かべた。
「私にとっての結婚は、……閣下。おそらくそれは、銀の髪の子どもを産む口実だと思います」