兄の失恋劇を、妹は腹を抱えて笑った。
「傑作ね!」
「そこまで笑わなくてもいいだろう」
 振った人間でもかわいそうだと思うくらいに従兄は笑われていた。
 哀れだ。こんな従妹と兄妹なんて。

 従兄を(無意識に)素気無く振った翌日、イルスは予定どおり実家を出た。帰途中に従兄の言葉が何度か反芻され、その言葉の意味がやっと理解できたとき、イルスは皇都に到着していた。
 時すでに遅し。
 身は守られた。
 自分で自分を褒め称えたい。

「もしかして、君、知っていたのか?」
「兄様のこと? もちろんよ。何のためにここまで来たと思ってるの?」
「え?」
「あの筋肉バカ兄様が、叔母様の目の届かないところまで来て、あなたに何をしでかすかわかったものじゃないからよ」
 何をって何だろうか? いや訊くまい。
「感謝してよね」
「……ありがとう」
 不本意だが、確かになにやら守られたようなので感謝しておいた。
「まぁ、おかげでわたしはいい人に巡り会えたんだから、いいけどね」
 人妻は楽しそうだ。



「式はいかがでしたか?」
 レセリアナとスティードは宮廷内の客室に寝泊まりしていた。
 スティードは今後、夜の警備なども研修ということで出るのだろう。レセリアナも慣れてきて、歳の近い少女たちと交遊する機会も増えたようだ。いつまでもイルスの屋敷に寝泊まりしていては、二人はいつまでも気兼ねしていただろう。

「いい式だったよ。母から土産を預かったんだ。あとで部屋に届けさせよう」
「ありがとうございます。出席できなくて、本当に残念でした」
「また機会があるだろう。街ならよく結婚式は見かけるし、休日に出かけてみるといい」
「はい。ぜひ」
「ちなみに君なら、どんな結婚式がいい?」
 イルスは気軽に尋ねたつもりだった。

 兄がまだ未婚なのは、領主夫人の器となる女性が見つからないのだという。
 イルスはまだ結婚の気持ちが湧かない。いつかは元気な跡取りを産んでくれる女性と結婚するだろうとは思うが、まだ間近には感じられなかった。
 彼女はどうだろう? 一女性として、やはり憧れるのだろうな、とイルスは思っていた。

 レセリアナの表情が曇った。
「わたしは……」
「どうした?」
「……わたしは……」