『ロールキャベツの作り方、教えてくれよ』
 いつのまにか親友になったらしいクラスメイトは、あれから週に一度は必ず食材をもって現れる。もちろん、四人分。

 金の心配をすると、なんでもクラスメイト・光井は親が金持ちで、ホイホイと小遣いをくれるらしい。
『親の金は使ってなんぼ。息子としての特権よ』
 父から小遣いを貰ったことのない陽太郎は、返答に困ったものだ。


 最初に光井の行動に戸惑った陽太郎が相談相手に選んだ、やはりクラスメイトの根津野には迷惑をかけたので、一度夕食に誘った。
 根津野は小学校からの腐れ縁だと言う根元を連れてきて、食事は賑やかなものだった。
 いつもは姉と姪が言い争いながらの食卓に、別の明るさが灯った。多すぎると思いながらも作った夕食もあっという間になくなって、後片付けまで手伝ってもらった。


 学校で話す機会も増えたような気がする。
 特に気にかけなかったが、陽太郎自身、学校ではあまり話していなかったようだ。新しい映画も、安くてボリューム満点の飯屋も、溜まり場になっているらしいゲームセンターも、お嬢様学校への近道も、話題に出されて初めて、そんなのがあったのかと気づいたくらい。

 引っ越してきてから、じっくりと街並みを見た記憶がない。
 いつも買い物をするスーパー、ときどき立ち寄る本屋、適当に目に付いた洋服店、一番近い理容室、姪の通う小学校、そして自分の通う学校───陽太郎の知る街並みはそれくらいだった。



「何? これ違う?」
 漢文の解読に唸っていった光井が顔を上げた。
「こっちが先」
「あ、そか。面倒クセー。一列に並べろっての」
 明日は当たる日らしい。光井は文句を言いながらも挑む。

 答えを見てもいつまでも解けないと陽太郎が言うと、光井はだったら教えろと言ってきた。
 時間はかかるが、ちゃんと解いていく。


「なぁ」
「んー?」
「なんで俺なわけ?」
「は? 頭いいから」
「だから親友?」
「え? あ、そっちか。違う違う。興味本位と願望」
「興味、本位と、がんぼう?」
 そう、と光井は真剣にうなずいた。

「オレってけっこう飽きっぽいのよ。恋も友情も遊びもゲームもぜんぜん飽きっぽいの。初恋の女の子に好きなヤツがいるって知った瞬間、もう飽きちゃったくらい」
 それは諦めがいいと言うヤツでは。
「クラスはもちろん楽しいよ。幼稚園からの腐れ縁なやつもいて、仲悪くない。
 でもさ、特別な縁ってのにオレ憧れてんの。

 いつも一緒にいるのがフツーで、いないとつまんなくて、いればケンカもして。
 長いこと離れててもまた会って遊べるやつ。長いこと忘れてたのに顔見たとたん、こいついいヤツ、また会えてよかったって思えるヤツ。
 そんなヤツがさ、いてくれたらいいなって思ってたわけよ。

 オレたち一年だろ? 進級して別のクラスにもなるってこともあるし、あと二年もすれば大学か就職で別れるだろ?
 でもまた会って遊びたいって思えるヤツに出会いたい、って思ってたのよ、オレは」

 べつにそれは重苦しい声ではなく、どちらかというとカラッと晴れた南国の空気みたいで。美味そうにオレンジジュースを飲む光井は重大な話をした気ではないようで。
 けれど陽太郎は、なんとなく、ものすごいことを告白された気がする。


 今自分たちは高校一年で。
 二年に進級したら別のクラスになる可能性もあって、でも遊びに行くぞ、と。

 自分たちはあと二年もすれば進学か就職をして、遠くに離れる可能性もあるわけで。
 でもまた遊ぼうぜ、と。

 いつまでも『おまえと』親友でいたいと言われたような気がした。
 なぜなら光井はもう、願っていたのは過去のことだと言っているのだ。


 ほかのクラスメイトの話では、光井はプチ・ジャ○アンで、人の話を聞かない無礼者で、借りたものは家に取りに行かないかぎり返さないやつらしい。
 でもそれは見方を変えると、いつでも注目されていたいと思う子ども心と、夢中になれるほどの情熱を持っていて、いつでも会えるからいつでもいいじゃんかと言っているような気がした。

「光井、おまえさ」
「あ?」
「おまえ、スゲーな」
 何のことやら、と光井は目を丸くする。



 陽太郎はやっと、光井という親友を実感した。
 そしてそれが自分のなかで大きな存在になるであろうことを予感した。