「屋敷に戻ったほうがいい」
 首を横に振る。
「フレッダ」
「……いや。……ば、に」
「フレッダ」
「そば、に、……て」
「屋敷に、戻れ。アルフレッダ」
「やぁ……───」

 彼を掴む手が震えた。
 夜目にも白い手が嫌になるくらい頼りない。守られることが当たり前なのに、今は何一つできず、思いつかない自分が歯がゆい。
 倒れた弟を抱きしめることしかできなかった両腕は、今も悲しいくらい細い。弟の命が自分の手からすり抜けようとすることと、自分の哀れさに泣いた。

 高い木の上の帽子は永遠に取れない。ひらひらと舞う蝶には追いつかない。当たり前のことだった。それを目の前に晒されると、わかっていても悲しい。

 彼が何かささやいた。大切な彼の言葉なのに、アルフレッダは聞き逃してしまった。
 聞きたくなかったのかもしれない。聞かなければ彼はまだそこにいると思ったのかもしれない。

 頬に張り付いた髪を冷たい指先が払いのける。
 温かいものがこめかみに押し付けられる。
「──────……」

「まだ、い、かない、で……」
 精一杯振り絞った願いは足音によって却下された。

 やっと騒ぎを聞きつけた衛兵が死体の広場にアルフレッダを見つけたとき、彼は姿を消していた。