「ねぇ」
 つながれた手に力をこめる。
 高鳴るはずの鼓動は穏やかで、声は震えもしない。口元の笑みはごく自然に浮かんだ。
「わたしね」

 強張った手に声を封じられる。

 彼の緊張が伝わった。彼の動きを妨げないようにつないだ手を解放し、身を小さく縮める。
 彼の手がアルフレッダの肩を掴むのと剣の柄を握るのは同時。瞬後、草むらを騒がす音がした。
 にゃーん
「猫?」
 勘違いに安堵して一歩踏み出した肩を強く掴まれる。彼の顔を見上げたアルフレッダの視界の隅で、何かが動いた。視線を移すより早く背に庇われる。

 金属の弾ける高い音がした。
 広い背に押されて後退する。高い木の陰に押し込まれ、肩を押されるままに座り込む。固い葉が頬をなでた。

 高い音は何度も響いた。
 衛兵の駆けつける足音はしない。広間の喧騒からはずいぶん離れていた。
 物陰に恋人たちが潜んでいたら、大声をあげて逃げ出しただろう。

 耳をふさぐことも忘れ、アルフレッダは闇を凝視した。
 耳の奥を指す音。くぐもったうめき声。地面を蹴り、草を凪ぐ音。
 いくつか重いものが落ちる音がして、静寂が戻った。それでもしばらくは緊張と不安で動けなかった。
 周囲がはっきりと見えないことが恐ろしい。