「アルパスって、なんでいつも怒ってんの?」
 おまえのせいだ、とは言わないでおいた。
「アンゲル師匠から、おまえの面倒を頼まれたからだ」
「あ、そっか。ごめんな。なんかさ、あいつがいなくなってスッゲー悲しいんだ。もうちょっとでガマンできるようになると思うよ」
 えへへ、と少年は笑った。
 今二人は花壇の草むしりをしている。先日起こした嵐で花瓶が三本も壊れてしまい、その罰だった。
「ごめんな。おれがやったことなのに」
「もういい」
 いまさらだ。
 せっかくの休日も。大切な授業も。

「ごめんな。怒ってるよな」
「怒ってない」
「でもおまえ、ぜんぜん笑ってない」
「笑うときがないだろう」
「ごめんな。おれさ、怖いんだ」
「だから、怒ってない」
「あ、そうじゃなくてさ。

 あのさ、おれ、置いて行かれんのが怖いんだ。
 おれさ、ガキのころ、親父とあちこち行ってたんだ。で、すっごい雪の積もった日にさ、いきなりおれ歩けなくなってさ、でも親父気づかなくって、そのまま行っちゃったんだ」
「…………………………」
「あ、たぶん親父のヤツ、本読んでて気づかなかったんだ。まえから良くあったんだけどさ、たまたまそん時、おれが動けなかったからさ、忘れちゃったみたいなんだ」

 だからさ、と少年は空を仰いだ。
「置いて行かれんのが怖いんだ」

 ときどき、視線を感じることがあった。
 夜闇に目を凝らすと、少年がアルパスを見ていた。目があうと、少年は何事もなかったかのように枕に頭をうずめた。
 まるで生きているか確認するかのように。

「…………」
「ごめんな」
「……だ」
「え?」
「大丈夫だ。
 わたしはおまえがいなくなったら気づく。おまえは騒がしいから、はぐれてもすぐに見つけられる」
 少年はまん丸の目をアルパスに注いだ。
 アルパスは自分で何が言いたいのかわからないままに言ったから、きっとおかしなやつだと思われたのだろう。

「あのさ」
「ん?」
「今、さ。気づいた?」
「何に?」
「おまえ、笑ったんだ」
「…………え?」
「なんかさ、スッゲーきれいだったんだぜ」
 ドキリ、と胸の奥が波打つ。

「スッゲーな。あんた、男なのにキレイな顔してんだな」
「…………………………………………………………………………っ」

 次の瞬間、アルパスの平手が高らかに鳴り響いた。