「お誘いいただいてうれしいのですが……」
レセリアナに、弟の結婚式に出席する気はあるのかと訊ねると、彼女も困っていたようだ。
「無理に出席することはない」
「いえ、こちらの結婚式にも興味はあります。でも……閣下はご存知だと思いますが、わたしの兄はサース国王です。わたしは身分の低い母から産まれましたので、王族としての権限はまったくありません。でも、こちらでわたしに何かがあれば、兄は閣下に謂れのないことを押し付けるかもしれません」
賢い少女だった。自分が王の血縁であっても王族でないことをしっかりと理解している。
「どうか閣下、レイレナ様に、レセリアナは恐縮のあまり出席できませんと、お伝えください」
イルスは肩を落とすレセリアナを、気にするなと励ました。
あぁ。
これくらい慎ましい女性なら、たくさんいても良いのに。
月が変わる少しまえに、イスルは主にしばらくの暇乞いをし、故郷に帰った。
実家のある街の門までくると、イルスを見つけた門番兵は大声で帰還を告げた。それが合図のように人々が仕事を放り出してイルスに花道を作ってくれた。
(……何か違う)
いつも思うことだが、領主の息子が───しかも他家に出たものが───里帰りしただけで、ここまで騒ぐ必要はあるのだろうか?
イルスは自分の顔が人に好まれるものだと気づいてはいるが、それがどんな作用を引き起こすのか理解していなかった。女性が涙を流して窓から身を乗り出すのに、ハラハラするだけだった。
嵐の目は静かだが、周囲がどうなっているのかなんて気づかないものだ。
父は少し老けたように思う。だが四角い顔は相変わらずで、筋肉の衰えも見えない。白髪が増えたくらいだ。
兄はだんだん、父に似てきた。顔の四角さとか、笑いシワの個所とか。これで美女を娶れば立派な二代目だ。
いや違うか。
弟は遠乗りに出ていた。このところ結婚に対する不安で落ち着きがなく、始終、動き回っているという。
父は笑って、自分もそうだったと告白した。
それもそうだろう。美姫を独り占めしようとする男を抹殺せんがために、いろんな嫌がらせが続いたのだから。よくも無事に生きているものだ。
弟は婿に行くので、こちらの準備はあまり大掛かりなものではなかった。
ただ驚いたことに、弟は貴族ではなく、商人の娘婿に納まる。弟から結婚の意志を告げられたとき、驚きのあまり父は椅子ごと後ろにひっくり返り、床に凹みを作ったそうだ。
弟のことも驚いたが、父の石頭にも驚かされた。
確かに弟は、兄弟のなかでは一番、算術に長けている。末弟とは思えないほど落ち着いているし、考えも深い。老舗の大商人の後釜としては良いのかもしれない。
……四角い顔をした筋肉だらけの大男が手揉みをする様子は想像しにくいが。
母はレセリアナが来なかったことを心底悲しんで、イルスに張り手を食らわせた。
五発。
悲鳴をあげた侍女たちのすばやい手当てのおかげで腫れは少しだった。
しばらくは謂れのないことを押し付けられそうだ。肩を揉むくらいなら孝行しようとイルスは思った。
命は惜しいから。
レセリアナに、弟の結婚式に出席する気はあるのかと訊ねると、彼女も困っていたようだ。
「無理に出席することはない」
「いえ、こちらの結婚式にも興味はあります。でも……閣下はご存知だと思いますが、わたしの兄はサース国王です。わたしは身分の低い母から産まれましたので、王族としての権限はまったくありません。でも、こちらでわたしに何かがあれば、兄は閣下に謂れのないことを押し付けるかもしれません」
賢い少女だった。自分が王の血縁であっても王族でないことをしっかりと理解している。
「どうか閣下、レイレナ様に、レセリアナは恐縮のあまり出席できませんと、お伝えください」
イルスは肩を落とすレセリアナを、気にするなと励ました。
あぁ。
これくらい慎ましい女性なら、たくさんいても良いのに。
月が変わる少しまえに、イスルは主にしばらくの暇乞いをし、故郷に帰った。
実家のある街の門までくると、イルスを見つけた門番兵は大声で帰還を告げた。それが合図のように人々が仕事を放り出してイルスに花道を作ってくれた。
(……何か違う)
いつも思うことだが、領主の息子が───しかも他家に出たものが───里帰りしただけで、ここまで騒ぐ必要はあるのだろうか?
イルスは自分の顔が人に好まれるものだと気づいてはいるが、それがどんな作用を引き起こすのか理解していなかった。女性が涙を流して窓から身を乗り出すのに、ハラハラするだけだった。
嵐の目は静かだが、周囲がどうなっているのかなんて気づかないものだ。
父は少し老けたように思う。だが四角い顔は相変わらずで、筋肉の衰えも見えない。白髪が増えたくらいだ。
兄はだんだん、父に似てきた。顔の四角さとか、笑いシワの個所とか。これで美女を娶れば立派な二代目だ。
いや違うか。
弟は遠乗りに出ていた。このところ結婚に対する不安で落ち着きがなく、始終、動き回っているという。
父は笑って、自分もそうだったと告白した。
それもそうだろう。美姫を独り占めしようとする男を抹殺せんがために、いろんな嫌がらせが続いたのだから。よくも無事に生きているものだ。
弟は婿に行くので、こちらの準備はあまり大掛かりなものではなかった。
ただ驚いたことに、弟は貴族ではなく、商人の娘婿に納まる。弟から結婚の意志を告げられたとき、驚きのあまり父は椅子ごと後ろにひっくり返り、床に凹みを作ったそうだ。
弟のことも驚いたが、父の石頭にも驚かされた。
確かに弟は、兄弟のなかでは一番、算術に長けている。末弟とは思えないほど落ち着いているし、考えも深い。老舗の大商人の後釜としては良いのかもしれない。
……四角い顔をした筋肉だらけの大男が手揉みをする様子は想像しにくいが。
母はレセリアナが来なかったことを心底悲しんで、イルスに張り手を食らわせた。
五発。
悲鳴をあげた侍女たちのすばやい手当てのおかげで腫れは少しだった。
しばらくは謂れのないことを押し付けられそうだ。肩を揉むくらいなら孝行しようとイルスは思った。
命は惜しいから。