王都から南東の地方を治めるのは、アルフレッダたちの叔父にあたる人だ。
 王公爵といって、アルフレッダが長女として王の憩いの庭を継いだのに対し、王の同母弟妹が王族の血を残すために代々受け継ぐ。血を残すためだから、今叔父に何かあっても、アルフレッダたちの異母弟は継ぐことができない。

 小さな頃は不思議とも思わなかったが、彼のつぶやきを聞いていろいろと考えるようになった。
『がめついな』
 ガメツイナ、というのが何なのか最初はわからなかった。呪いの言葉かと思っていた。話題のついでに訊ねて、大笑いされたのを今でも根に持っている。
 あんなに笑わなくてもいいのに……。



 叔父は亡き父の弟だが、アルフレッダたちとのほうが歳が近い。
 一緒に遊んだ記憶はほとんどないが、いつも身近な人に感じられた。

 弟が遠くに行ってしまったとき、忙しい兄に代わって慰めてくれたのは、叔父の婚約者だった。もう妻と言ってもいい。
 美しい栗色の髪の異国の姫。少ない侍女と騎士だけが彼女と故郷のつながり。病弱で滅多に外に出たことがないという。

 姫君は、先の大戦中、最南の国から人質同然に送られてきた。外戚とはいえ王族に連なる姫君だったので無碍にはできず、亡き父は伯父と娶わせたという。
 すぐに終戦を迎え、二人は婚儀を上げたのかどうかもわからないほど忘れられている。

 異国の姫君は、身の回りの寒さに途方に暮れたアルフレッダに、筆まめに手紙をくれ、励ましてくれた。いつも屋敷を囲む庭に今咲いている花をつらつらと書き綴ってくれた。変わり映えのない、なんでもない日常を読んでいると、心が落ち着いてくる。
 会ったことはないが、姉のような存在だ。

 ここしばらく、質の悪い風邪をこじらせたらしく、見舞いに朝摘みの薔薇を贈ると、可愛らしい礼の手紙を貰った。今度は室内からいつでもでもよく見えるようにと、大輪の薔薇の苗を贈った。

 手紙の中には気弱な気配はない。
 彼女はどうやって、親しい人たちとの別れを耐えたのだろう。