「姉上。失礼してもよろしいですか?」
 今一番難しいところだったが、アルフレッダは針を止めた。
 アルフレッダがうなずくと、乳母と裁縫の先生がほかの娘たちをせかして退室した。扉は閉められ、窓は開けられたまま。

 窓から生暖かい風が吹き込む。それを吸い込んだのか、弟は顔をしかめた。弟は暇を見つけては会いに来てくれるが、実はアルフレッダの屋敷の庭が好きではないのだ。
「また、断ったんですね」
 見合いのことだ。
「だって、おしゃべりが過ぎるもの。うるさいわ」
 会うには会うが、もう何人も断ってきた。おしゃべり屋におべっか男、そそっかしい照れ屋に無骨者。散々褒め称える者もいれば、何事かと思うような贈物をする者。夫になることを前提として話す阿呆者もいた。
「うんざりよ」

「いったい、どんな男なら良いんですか?」
「知力と品位をもち、驕らず謙らない方。誠実で正直で」
「従順で貞淑であること」
 弟が続きを諳んじた。そうよ、とアルフレッダは言い返す。
「そして妻を愛し、子を見守る男───理想の夫ですね」
「よい方にいただかれるのは女の夢よ。あなたにはわからないでしょうけど」
 弟は苦笑した。
「残念ながら、わかりませんね」

 弟の子がもうすぐ産まれる。
 政略のために弟は結婚した。嫌も何もいわず、必要ならばと元敵国の姫を娶った。この後も第二、第三と妻は増えるだろうし、弟は嫌だとは言わないだろう。
 兄が亡くなったときと同じ歳で、弟は父親になる。
「ねぇ、コリィ」
「はい、姉上」
「子どもが生まれたら、また賑やかになるのね」
 弟は慎重にうなずいた。