「ねぇ、お茶を飲まない?」
「飲まないほうがいい」
 言われてアルフレッダは、胸元から象牙色のペンダントを取り出す。湯気を立てるお茶に近づけると、象牙色は下から紫色へと変色した。
「また……」
 毒入りのお茶。今月にはいってもう七回目だ。
 ここまでくるともう、毒が恐いというよりお茶がもったいないとしか思えない。

「オレンジ、食べるか?」
「えぇ。喉が渇いているの」
 立ち上がって木の下へ行くと、柑橘系の爽やかな香りがした。頭上の木陰から腕がにゅっ、と降りてきて、皮がむかれ、半分になったオレンジを差し出した。
 受け取って、アルフレッダは微笑む。
「ありがとう。降りてこないの?」
「ロアンが探している」
 近衛騎士長は一日に一度は必ず腹を立てる。それはたいてい、この樹上の人のせいだ。
 騎士長が言いたいことはもう覚えたという彼は、なるべく騎士長に会わないようにしている。アルフレッダの庭が一番の隠れ家で、そのことは騎士長も知っているが、さすがにここまでは追ってこない。

「甘い」
 ひと房口にして、その甘酸っぱさは目が覚めるようだ。
「今年は果物がよくできた。数は去年と変わらないが、良い値で売れるだろう」
「よかった。一昨年は数ばかりで、味が悪かったものね」
「良いときと悪いときがある」
「そうね」
 木の幹を背にして座り込み、膝を見つめる。緩やかなドレープにあわせて生地は様々な色を見せている。

 白いものがぱらぱらと振ってきた。良い香りがする。
「なぁに?」
 上を見上げて訊ねると、もっと振ってきた。
「もう! 口にはいったわ」
 笑い声がする。

 口にはいったものは小さな花だった。白い花びらに囲まれたオレンジ色の雌しべたち。
「オレンジの花だ」
「これが? こんなに白いの?」
「実と花は別物だ。これが最後だから、ポプリにしたらどうだ?」
「だったら投げないでくれたらいいのに」
 プリプリ怒りながらアルフレッダは帽子に花を集める。
 小さいのに肉厚な花びらで、力をいれ過ぎると傷ついてしまう。爪にも気をつけてやらなければならなかった。