「なぜ人は争うのかしら?」
 誰にいうともなく零れた。
「腹が空いて何もなければ猟に行くのと同じだ。我慢できないことがある」
 思いがけず木の上から答えが返る。
「命や土地は奪い合うものではないわ」
「獲物も猟場も限られている」
「一緒に使えばいいのよ」
「同じところでは近すぎる。射た矢が人にあたらないともかぎらず、他人の得たものが見えれば優劣を覚える」
「そんな……」
「人は小さな差異を気に病む」

 彼の言葉は時々難しく、答えは貰うだけのものではない。優しいようでいて厳しいのは、綺麗で恐ろしい雪に似ている。
 彼自身も美しく厳しい。褒めても讃えず、優しくても甘くない。
 それでも彼から貰ったものは大きい。



 その男からは何を貰っただろう。
 色の付いた石。聞き慣れた言葉。口元だけの笑みは直視したくもない。
 耐え難い。
「もういいわ」
「は?」
 言われた意味がわからない、と男が声を上げる。自分の話を遮られたことに腹を立てることもない。もちろん、聞いてなどいなかったから、遮るのに躊躇しなかった。

「もうよいと言ったの。下がりなさい」
「ひめ」
「次はありません。下がりなさい」
 追い払われる理由がわからないのか、男は首をかしげながらも従った。
 中身のない人間だ。部屋を出た途端、次の贈り物とやらのことを考えるのだろう。次は顔に叩きつけやってもいいとさえ思った。