雨の中。
 ダンボールに入れられた薄汚い子犬なんて在り来たりだ。
 それに目を留めて動けなくなり、小一時間も相々傘してしまった自分は滑稽だ。


 思い出す。
 小学校二年生のとき。一年生だったかも知れない。
 とにかく小学生で、まだランドセルが大きくて、黄色い帽子をかぶるのがそろそろ嫌になってきた頃だった。

 帰り道、地面に動くものを見つけた。好奇心が勝る年頃だった。近寄って覗き込むと、片足の取れたスズメだった。
 母が毎日入れてくれるポケットのハンカチを広げ、羽根をばたつかせるスズメを包んだ。苦しくないように、手のひらに綿飴を乗せるように慎重な手つき。

 玄関で、母は悲鳴をあげた。

 捨ててきなさい
 捨ててきなさい
 お願いだから、捨ててちょうだい
 そんなキタナイモノ

 汚いものを持つ息子を見る目は、初めて見る色をしていた。何年も掃除がされていない溝のような色。どす暗くて、渦を巻いていた。
 母の喚き声に、近所の人が遠巻きに視線を寄越す。

 またよ
 ほら
 ね、言ったでしょ
 スゴイわね

 玄関から一歩も家に近寄らず、片足の取れたスズメを抱きかかえたまま学校に「帰った」。
 保険医の先生はもう帰る準備をしていて、でも半泣きの児童を見ては放ってはおけなかったようだ。きれいな手で優しく、片足の取れたスズメを受け取ってくれた。

 いっしょウメテあげましょうね

 嫌がる子どもの手を引いて、保険医は裏庭の片隅の木の根元に穴を掘るように言った。まるでその穴に自分が放り込まれる気持ちで穴を掘った。
 真っ白だったハンカチで丁寧に片足のないスズメの亡骸を包んだ。保険医は花の種をいっしょに植えてくれた。

 花が咲けば、寂しくないでしょ

 死んだ片足のスズメは寂しがるだろうか?