恋は自然にやってきた。

 十月十日をかけて人の子が生まれるように、次第にそれは膨らんで誕生した。
「わたしのどこが好き?」
「頑固なところ」
「あなただって頑固よ」
「じゃぁ、諦めないところ」
「あなただってなかなか折れないじゃない」
「じゃぁ、走り出したら止まらないところ」
「それって、誉め言葉?」
「もちろん」

 本当のことは言えなかった。
 言うにはまだ恥ずかしくて、言おうとしたときにはいまさら恥ずかしかった。



 病は突然にやってきた。

「え?」
「知ってる?」
「いや……どんな、病気?」
「えぇっとね、まだ新しい病気でね、特効薬がないの」
「うん」
「早期発見が大事だって言うけど、見つけるのはすごく難しいんだって。過労の症状が出てね、それと間違っちゃうんだって」
「うん」
「でね、体がダルくなってね、微熱が続いて、立てなくなるんだって。そこから違う症状が出るんだって」
「うん」
 彼女は医者から聞いた言葉のすべてをたどたどしく話した。そのたびに私は頷くしかなかった。

 私は生物学者であって、医学者ではなかった。
 私は生命を甦らせようとしていたがそれは植物のことで、人の生命の危機を救うことはできなかった。

「でね、院、辞めようと思うの」
「…………」
「これから大詰めだから。みんなピリピリしてるのに、途中でわたしが倒れるわけにはいかないの」
 頑固で、諦めが悪くて、走り出したら止まらない彼女の夢は止まった。
 潔いほど。