その頃の私は確かに狂っていたのかもしれない。
学生時代から仲のよかった友人たちも、気の良い近所のおばさんも、毎朝自分だけで散歩をする犬とも永いこと会わず、連絡を取ろうともしなかった。
昔の自分なら考えられないことだ。
目に付く動物にはとりあえず話し掛けるのが癖だった。
それを笑っていじめた子どもも、友人の中に含まれるくらいの時間が経った。遊び騒いで、喧嘩した。
彼女との出会いは単純だった。
図書室で、本棚の高い段の本を取ろうとした彼女の代わりに私が取った。彼女は「ありがとう」と囁いた。
しばらくして図書室で、本棚の下の段の本を取ろうとしたとき、白い手が伸びて本を取り上げてくれた。彼女だった。私は「ありがとう」と囁いた。
それから最初に座った席は、お互いが一番離れた席だった。
次には椅子ひとつ分近づいた。その次にはもうひとつ分近づいて、そのまた次にはさらにひとつ、と椅子が時を刻んだ。
大学から大学院に進んだとき、彼女は工学部にいた。私は生物の、それも絶滅した植物を扱った。
「どうして絶滅種なの?」
「じゃぁ、君はどうしてロボットを動かそうとするの?」
「ずるいわね」
「おんなじだよ」
「どこが?」
「君は人を元に無機物を動かそうとしている。私は植物を元に有機物を甦らせようとしている」
「どこが同じなの?」
「生かそうとしているところが」
彼女はいたずらっ子のように笑った。
「じゃぁわたしもあなたも、お母さんになろうとしているのね」
彼女は新たな種を、私は過去の種を生かそうとした。
学生時代から仲のよかった友人たちも、気の良い近所のおばさんも、毎朝自分だけで散歩をする犬とも永いこと会わず、連絡を取ろうともしなかった。
昔の自分なら考えられないことだ。
目に付く動物にはとりあえず話し掛けるのが癖だった。
それを笑っていじめた子どもも、友人の中に含まれるくらいの時間が経った。遊び騒いで、喧嘩した。
彼女との出会いは単純だった。
図書室で、本棚の高い段の本を取ろうとした彼女の代わりに私が取った。彼女は「ありがとう」と囁いた。
しばらくして図書室で、本棚の下の段の本を取ろうとしたとき、白い手が伸びて本を取り上げてくれた。彼女だった。私は「ありがとう」と囁いた。
それから最初に座った席は、お互いが一番離れた席だった。
次には椅子ひとつ分近づいた。その次にはもうひとつ分近づいて、そのまた次にはさらにひとつ、と椅子が時を刻んだ。
大学から大学院に進んだとき、彼女は工学部にいた。私は生物の、それも絶滅した植物を扱った。
「どうして絶滅種なの?」
「じゃぁ、君はどうしてロボットを動かそうとするの?」
「ずるいわね」
「おんなじだよ」
「どこが?」
「君は人を元に無機物を動かそうとしている。私は植物を元に有機物を甦らせようとしている」
「どこが同じなの?」
「生かそうとしているところが」
彼女はいたずらっ子のように笑った。
「じゃぁわたしもあなたも、お母さんになろうとしているのね」
彼女は新たな種を、私は過去の種を生かそうとした。