その後、宰相の前で公式に挨拶するとき、レセリアナの後ろにはイルスと同年ほどの男が立っていた。
 目じりの下がった浅黒い肌と明るい茶色の髪は、サース国では多い特徴だと聞いている。名はスティード。
 レセリアナの侍従だというが、実際には護衛だろうと思われる。帯剣許されない場所であるため腰には何も帯びていないが、左手が腰のあたりを彷徨っている。

 レセリアナは宰相の前で緊張気味だったが、スティードは不機嫌な様子で眉間にしわを寄せていた。宰相に労いの声をかけられてもしわが消えないところを見ると地顔らしい。
 それが魔導士ハッサムの紹介になると途端、肩が緊張した。北の国では魔導士は多いと聞くがどうしたことだろうと思いつつ、イルスはそのときあまり気にはとめなかった。
 まさかあの姿が恐ろしいなどと思いはしなかっただろう。大の男が。

「とりあえず今日は、しばらく寝泊まりすることになる場所を見て回ろう。いくつか立ち入り禁止のところがあるから、気をつけるように」
「はい」
 レセリアナは素直にうなずいてイルスに従った。その背後のスティードは黙々と歩く。
 番犬のような男だと、イルスは思った。



 いきなり宮廷に寝泊まりするのは緊張するだろからと、最初のうちはイルスの屋敷に泊めることになった。
 イルスには同居する家族もいなければ、屋敷に呼ぶ客人も少ない。宮廷ほどとはいかないまでも、部屋はあまるほどある。

 王族の、しかも姫君とは思えないほど、レセリアナは規則正しい生活を送ってきたようだ。
 朝はイルスよりも早く起き、なんとスティードと剣術の打ち合いをする。その腕は見事なもので、頭ひとつ分背が高く、体格も良い彼と互角に渡り合っていた。
 イルスも勝てるか自信がない。

 汗を流したあとは三人で食卓を囲む。
 ときおり従妹が来てサース国のことを興味深く聞いていた。レセリアナも少女らしく流行りの服や髪飾りのことなどを訊いていた。
 驚いたことに、二人は気が合うようだ。
「仕事ばっかりさせないで、たまには貸してね」
 帰り際、従妹はそんなことを言った。
 人妻は楽しそうだ。