『わたしは戦場では足手まといだわ。剣はあるけど、使うことができないもの。
 だから、おまえには、わたしの剣を貸してあげる。
 よく斬れる剣よ。盾にもなるのよ。
 ちゃんと、返さなくてはだめよ』
 姉の後ろに立つ男は静かで、森の中で清水を湛える泉のようだった。

『そしてね、コリィ。
 あしたわたしが「いってらっしゃい」と言うから。
 おまえは「いってまいります」というのよ?』
 姉の手は母のように柔らかく、温かかった。

『わたしたち、ずっと一緒よ』

 フレッダを、
 泣かせるな───

 アルフレッドは両手をこぶしにして力を込める。
 言われなくてもわかっていると、心の中で言う。
 たくさんの助言のなかには、気づかなかったことや忘れていたこともあった。純粋に知らないこともあった。
 ただひとつだけを除いて。



 秋の暮れの高い夜空。
 ぽつりぽつりと残る薔薇の蕾は小さく。
 照らす光は儚い月。手元の暗闇は追い払えない。足元の闇には届かない。
 けれど。
 薄暗闇の中で互いの呼吸は聞こえる。
 薄明かりの中で、互いの涙のあとが見える。

 アルフレッドは薔薇を握る姉の手に、自分の手を重ねた。
「姉上。わたしたちは、ずっとそばにいます」

 姉はゆっくりと視線を上げ、いつのまにか高くなったアルフレッドの顔を仰ぎ見た。
「……えぇ。そうね」
 柔らかく冷えた薔薇の芳香のような優しい笑顔。



 月明かりの薔薇園で。
 互いの胸に明かりを灯しつづけることを、無言で誓った。



――――終