盛りを過ぎ、眠りにはいろうとする薔薇たち。
 わずかに残った蕾は、夜空の下で見ると、思い悩む人の心を塊にしたような形をしている。

 広大な薔薇園に佇む人がいる。
 庭の佳人。
 薔薇の姫君。
 風見鶏の騎士の主。
 アルフレッドたちの姉。

 うつむいて立ち尽くす姉のうなじが白い。
 服は夜会のときのまま。乱れた様子もないことにアルフレッドはつい安堵し、不埒なことを思った自分を恥じた。思いついた男の顔を頭から追いやる。

 声をかけようとして思いとどまる。
 肩が震えているような気がした。
 泣いているような。
 賢明に声を押さえているような。

 アルフレッドは静かに上着を脱ぎ、姉に近づく。息を殺してうなだれた肩に上着をかける。姉の背中がぴくんと跳ねて、ゆっくりとアルフレッドを振り返った。
「コ、リィ……?」
 姉は泣いてはいなかった。
「風邪を引きます」

 姉の目は静かだった。
 あの男を追う熱っぽさも、あの男を捜す焦りも見当たらない。
 何もかも知っている者のような静かな瞳。東の森に住む賢者もこんな眼差しをしているのだろうかと、アルフレッドは思った。

「コリィ。わたしね」
 姉が手元に視線を落とす。
 小さな、黒い薔薇。

「好きなの」

 誰がとか、どうしてなど尋ねなかった。必要とは思えなかった。ただ姉のそばにいて、姉が一人寒さに凍えないようにと思った。
 あなたは一人じゃないの、と。
 昔姉が言ってくれたことを実感しながら。



『おまえはわたしの弟よ。一人になんてしないわ。
 わたしは毎日おまえのことを想っているから。
 おまえも、わたしのことを忘れてはだめよ』
 忘れることなどできなかった。常に心を占めていた。

『そんな重いもの、わたしたちのまえでは下ろしてしまいなさい。
 かわりに、花の冠を作ってあげるわ』
 アルフレッドには白い花で、末弟には薄桃色の花で作られた花冠は姉の不器用さが際立っていたが、何よりも神々しいものだった。