父でもなく兄でもなく、大切な姉でもなく、幼い弟でもなく。
 師であり臣であり、友のような。盛装と石頭と酔っぱらいが嫌いで、稽古や式典はほとんど欠席し、誠実でもなく嘘つきで、木の上で昼寝をするのが好きな野良猫のような、この男は。
 もっとずっと、そばにいてくれるだろうか……?
 この心が冷え切らないように、絶えず諌めてくれるだろうか?

 願えば───永遠に。



「コリィ?」
「…………あ」
 男は笑った。言葉ではなかなか誉めてくれないのに、よい選択をしたときに見せる優しい笑み。
「もう、大丈夫だな?」
 何か言わなければならないのに、言いたい言葉が多すぎてかえって言葉が詰まった。喉にたくさんの言葉が詰まった。それは訊ねたいことや文句や、おそらく感謝の言葉だった。

 アルフレッドがどんなことを口にしても、男は恐縮もせず、ありがたがることなどしないだろう。けれどいつだって、認めたくなくても言いたいと思っていた。
 ありがとう、と。

 アルフレッドは歯を噛みしめた。
 男の赤い手にまた血が流れた。腹部は真っ赤に染まっているのに、顔は白磁器のように白い。
「せ……せめ、て、手当てを」
「いいから、急げ」
 アルフレッドの腕を握った冷たい手が、アルフレッドの背中を押す。押された背中が熱くなる。

 顔が熱い。
 指先が切れそうなほど冷たい。
 喉に詰まった言葉が渦を巻いて抗議も嗚咽も飲み込まれた。

 アルフレッドは涙を流しながら部屋を出た。

 気づけば周囲を騎士たちが取り囲んでいた。
 泣きながら歩く主に一言も声をかけず、ただただ忠実に主を守っている。泣いている理由も、行き先も聞かない。
 忠実な騎士。
 あの男には死んでもできないであろう真面目な態度に、アルフレッドは小さな笑いを口元に浮かべた。


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