尻の前に背中に何かがあたった。脇が締め付けられ、ベルトを掴まれる。
 倒れる直前のアルフレッドを支えたのは、あの男だった。
「…………重い。大きくなったな」
 その発言は今この現状には似つかわしくない。まったく。
「遅い」
「ちゃんと身一つ守れたじゃないか」
「騎士は主を守るものだ」
 男は器用に片眉をあげて見せる。アルフレッドもこの男の主が誰であるのか思い出したが、言いなおす気はなかった。息が上がっていて言うこともできなかった。

「貴様! ど、どこから」
「おまえこそどこから湧いてきた。家で女房のケツに敷かれていればいいものを、のこのこ出てきやがって」
 辺境伯の顔がみるみる赤くなる。
 言い返そうと口を開くと同時に、締め切られていた扉が勢いよく開いた。衛兵がなだれ込んでくる。
 主を守る騎士と二人に剣を向ける者たちを見て、衛兵は即座に役目を守る。剣を抜き、侵入者たちを捕らえ、後ろ手に縄をかけた。


「陛下、お怪我はございませんか?」
 椅子に腰掛けたとき、衛兵たちを指揮する騎士がアルフレッドの足元にひざまずいた。
「ない。衛兵はどうした? 警備はどうなっていた?」
「二人は意識を失っていただけでしたが、他のものは事切れておりました。申し訳ありません。御身をこのような……」
「もういい。死んだものは手厚く葬ってやれ。家族にも知らせを出せ。それから……」
「コリィ」
アルフレッドのそばに立っていた男が言葉をさえぎる。
「ここの処理は任せて、おまえはフレッダのところに行け」
「……なに?」
「今すぐだ。急げ」
 アルフレッドは男をまじまじと見つめた。
 そして気づいた。

 明かりの灯された部屋の中で、男は紙のように白い顔をしていた。
 いつのものなのか、男の腹部は血で濡れていた。まだ乾いてもいない新しいものだ。腹部を押さえた男の手は真っ赤に染まっている。


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