背中に机の角があたる。ペンでは役に立たないだろうか。墨壷のほうが当たれば痛いだろう。
 考えているうちに両方を手にとって放り投げた。珍妙な襲撃に驚いて一人がペンを斬る。蓋の開いていた墨壷は辺境伯にあたって服を汚した。こめかみに筋が浮いたようだ。

 その光景をアルフレッドは見ていなかった。机に飛び乗り、窓際の敵に飛び掛かる。敵は背中から窓に倒れ、ガラスの割れる大きな音がした。すばやく立ち上がり、椅子の上の短剣を取る。
 窓は開いた。大きな音もした。
 せめて外の衛兵は気づくだろう。

「殺せ!」
 猟師の怒声がアルフレッドに襲いかかる。

 早く、とアルフレッドは願った。
 主の部屋で大きな音がしたのだ。早く来い、と。

 最初の攻撃を避ける。二撃目を短剣で受け流す。
 攻撃を仕掛けられない。武器の長さが違いすぎる。

 早く。

 獲物を仕留められないことにあせりが出たのか、力いっぱい剣が振り下ろされる。受け止めたアルフレッドの腕をしびれさせるほど強い。

 早く、来い。

 アルフレッドは何かを踏みつけたらしい。足元が滑った。おそらく処理中の書類だ。
 息を詰めて尻餅を覚悟する。
 尻の痛みよりもその隙にくる命の危機回避が優先だ。

 来い、ここに。
 早く。

 早く。

 誓約の下。
 忠誠を誓いし騎士よ。

 今、ここに。
 来い───


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