主が主となられたのは、イルスの生まれるずいぶん前。まだイルスの祖父さえ生まれていなかった時代。

 なぜ、この人が主の座に就かれたのか。
 なぜ、ここまで長く生きられたのか。───知るものはほとんどいない。

 その貴重な「知るもの」であるうちの一人、魔導士ハッサム。
 彼もまた主と同じくらい長寿である。
 彼は魔導士だから、イルスにもその理由はわかる。精霊にかかわると寿命や成長、老化などに大きな変化があるというのは小さな子どもでも知っている。

 では、魔導士でもない主は?
 これはイルスにもわからない。

 訊ねたい衝動に駆られたこともある。特に他意はなく興味本位からくるもので、純粋な好奇心だからお尋ねしてみようとか思ったこともある。だが実際には、なぜか実行できていない。
 なんとなく、訊いてはいけないような気もしたからだ。

 久しぶりに「魔導士」というものを思い出して、イルスは再び訊ねたい衝動に駆られた。

「イルス?」
 肩をたたかれて気づく。主が何度もイルスを呼んでいたようだ。
「は、はい。申し訳ありません」
「いや。……どうした? 急に考え込んで」
「は、エ、いえ。陛下が、いえ、あの、あぁ、あの、陛下がこのようにして見聞を広められていらっしゃると知り、驚いていたのです」
「……そうか」
 主はイルスの言葉を疑いもしなかった。
 なんと純粋な人だろう。


「では、本日はこれまでに」
 ハッサムの言葉でお開きの時が告げられた。もっと訊きたいが、夜も更け、さすがに明日の仕事に差し支える。
「補佐殿」
 慣れない衣装で立ち上がるのに四苦八苦しているイルスをハッサムが見ていた。
「は、はい」
「本日の夜会は、仮装でしたか」

 明日は休もう。
 イルスは思った。

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