大きな民主国家の長官が惜しまれながらもとうとう辞めたこと。
 彼は若くして議会に参入し、反対にあいながらも屈さず、新しい制度や改正を繰り返した。任期は三年だが連続二期を務めたとき、さすがに本人も役を降りようとしたが、請われてもう一期、長官の座を務めたという。

 大河を挟んだ領地の争いが、いまだ決着がつかないこと。
 川が自分たちのものであるという双方の言い分はけっして譲られず、十二年目に突入した。血の流れるような争いはなくなったものの、まともな話し合いの場も作られず、事態が良くなる様子はないという。

 大きな岩盤事故があったこと。
 新しい街道工事中、大きな一枚岩の一部が突如崩れ落ち、五十人近い負傷者が出た。これまで落石などもなく、事前調査も十分に行われた結果にこのようなことがあり、かなり大きな問題になっているという。
 もちろん工事は中断された。

 古国と呼ばれる古い血統の国に新しい王が生まれたこと。
 数十年前の継承戦争で王族がちりぢりとなり、宰相一家が支えていた。その宰相一家は行方知れずになった王族の帰還まで、王座は守られるべきだと主張していた。貴族たちのあいだには自分たちの中から誰か選び、王印を復活させるべきだという主張が大きかった。
 長いこと双方は膠着状態にあったが、今回無事に王子が帰還し、即位したという。


「この王は今後、心に留め置かれると良いでしょう」
「ほぉ。逸材ですか」
「御年十八歳。宰相自らが育てあげた、百年に一人の逸材です」
「十八? ずいぶんと若いですね」
「宰相はあと二年待つつもりだったようですが、本人が即位を決意されたそうです。王座がカラになれば城も荒れ果て、近くの町も活気がなくなります。その姿に急かされたのでしょう」
 なるほど、と主はうなずかれた。


「イルス?」
「は、はい」
「つまらないか、こういった話は?」
「いいえ、まさか。異国の話など珍しくて、驚いているのです」
 そして主が外の世界に目を向けられていることを知り、尊敬の念を強くした。

 どれだけ崇め奉られようと、主は自分が成長することを諦めない人だ。
 どれだけ長く生きられようと、人であることに代わりはない。
 主はイルスたちと同じく人なのだ。
 どれだけ長く生きておられようと。

 その長さが、人の寿命を遥かに越えていても。


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