劇場が幕を閉じるように式は終わった。

 火照った頬に風をあてると眠気が染みでるように沸いてくる。
 目を閉じると木の葉の擦れ合う音や虫の声、遠くから誰かの笑い声がした。いや、狂った末の泣き笑いだったかもしれない。

 早急に仕上げる必要のある件だけに目を通し、今日はもう寝るだけだった。あとはすべて明日だ。治水工事の遅れも森林開拓反対の声も、減税の嘆願書も増税の見積りも。
 第二側室の見合い写真など宰相に任せればいい。娘たちの婿候補など百年早いと叩き返すべきだ。
 姉の見合い写真だけはじっくりと吟味したが、これまでと変わり映えのしない貧相な男たちばかりだった。姉がうんざりするという気もわからないでもない。

 もし……、とアルフレッドは思うときがある。
 花園の叔父が未婚であったら、アルフレッドは姉を頼んだだろう。姉も喜んで嫁いだだろう。
 叔父はあの男とはまた違った美貌の持ち主で、気性も穏やかで品がある。叔父こそ、誠実で正直な人だ。姉の理想の人だ。

 もしあの姫君が政略結婚で嫁いでこなかったら。ただの国内の令嬢であったら、叔父は姉を選んでくれたのではないだろうか?
 戦地から生還を果たしたアルフレッドの頭上に王冠を載せたときのように、妻の座を姉に与えてくれたのではないだろうか?

 そうして姉は、幸せになれたのではないだろうか───?

 ふぅ、とため息が出る。
 詮無いことだとわかっていても考えられずにはいられない。
 姉の幸せ、弟の成長は、アルフレッドの楽しみだ。二人のために何かをすることは、アルフレッドにとって幸福なことなのだ。
 そのために仕事の日程を多少無理したり、聞きたくもない報告を聞いたり、頭の痛くなるような授業も受けている。二人のためだと思うと身も引き締まる。


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