結局、あの男は出席しなかった。
 姉の隣りには誰もおらず、姉は誰の誘いも受けなかった。
 背と腰掛ける部分にたっぷりと綿の詰め込まれた椅子に座り、立ち上がろうとしない。一段高くなったその場所には王族以外は誰もはいられないと知っているから。

 アルフレッドの娘たちを取り囲み、人々は賞賛を与える。
 誰もが、娘たちはアルフレッドによく似ているという。
 三ヶ月も経ったが、いまだアルフレッドは自分と娘たちの似ている部分がわからない。手鏡を持ち込んで自分の顔と見比べたこともあったが、それでもわからなかった。
 アルフレッドの目はおかしいのだろうか?



 華やかな時間は過ぎ、終わりに差し掛かる頃。
 あの男は現れた。

 誰もが、息を飲んだ。

 いつもの質素で品格の感じられない衣装からすると別人かと思うほど着飾っている。実際は会場の誰よりも地味だ。だが珍しいものをみて、アルフレッドさえ驚いた。
 衣装が影のように濃い色合いであることは変わらない。
 袖口の折り返しの刺繍、大胆に広げられた高襟の薔薇の紋章は見事で、ひとつもない宝石類の代わりに輝いて見える。
 靴のつま先の光り具合が眩しい。

 腰に差した剣はどこの鍛冶屋も手に取ったことがないという。あれほど戦場を駆け回ったというのに、刃毀れひとつしていないというのか。
 明るい色の髪を後ろで軽くまとめ、小さな濃い紫色の薔薇を飾っている。男が髪に花を飾るなど笑いもののはずなのに、笑えないほど似合っていた。

 男は会場をぐるりと見回し、主を見つけて一直線に歩く。二人は何事か囁きあい、連れ立って薄暗い夜の庭に出た。

 アルフレッドをはじめ、残されたものはしばらく呆然としていた。
 一夜の夢にしては強烈で、あまりにあっさりと過ぎていった。



 姉たちは戻らなかった。


「薔薇園シリーズ」一覧