「まだ決めないのか?」
 訊かれてアルフレッドは、口をむっ、と曲げる。

 あと五日で子どもたちのお披露目式がある。あっという間に三月が経ってしまった。その間、アルフレッドの娘たちは「姉姫」「妹姫」とだけ呼ばれていた。



 誕生から三ヵ月後に大勢の人間を呼んで祝いの席を設け、名前と子どもたちの姿を披露する。国内外の貴族や豪商が城に集まり、城壁の外では中にはいることの許されない者たちが好き勝手に祭りを催す。
 祝いだからもちろん、民にもミルクを配る。大人たちはそれに酒をいれて飲み、子どもの中には蜂蜜をいれてもらう者もいるだろう。
 それから、同じ年に生まれた子どもには白いハンカチを。

 これは言い伝えがあるらしい。
 子どもが産まれた年に作った白いハンカチに願い事を書き、東の川に流す。それは国の東側に広がる森に吸い込まれ、森の賢者がそのうちのいくつかの願いを叶えてくれるという。
 もちろん親がすることだから、アルフレッドも自分の時にはなんと願い事をされたのか知らない。親たちはけっしてその願い事を教えないのだ。



「……いま、考えている」
 わざわざ露台に椅子を運ばせ、人払いをした。
 馬鹿なことをしていると、アルフレッドは自覚している。だがこの男はほかの者の前には出てこないだろうと、なぜかわかった。

 姉が庭でお茶を飲むときは必ず二人分用意される。アルフレッドが突然尋ねてきたとき、姉の向かい側の席には中身が半分残った茶器がぽつんと置かれていた。客かと訊ねても、姉は笑って教えてくれなかった。
 おそらく、この男だろう。

 戦場であれだけ活躍したというのに、公式の場には滅多にでない。盛装が嫌だとか、政治はわからないなどといって逃げる。
 アルフレッドはもちろん信用していない。
 盛装を嫌うものがわざわざ騎士になるわけがなく、アルフレッドにもわからない単語の羅列された本を読むくせに政治がわからないなど、嘘に決まっている。



「無難な名前にすることだな」
 なぜなのか、そのときアルフレッドはすぐにはわからなかった。
 あとになって娘たちが元敵国の姫で側室であり、正室は国内の侯爵家の姫だということを思い出した。たとえ骨と皮の女だろうと、正室を盛り上げる必要がある。
 やはりあの男は信用ならない、とアルフレッドは思った。


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