今の自分が誰のおかげであり、誰のためにあるのかくらい、アルフレッドは知っている。姉が願ってくれたからアルフレッドの命はあり、姉弟のために王座に座る。
 それ以外にはない。

 騎士は主に忠誠を誓い、その命は主のためにあり、主の盾となり剣となる。
 あの男は確かに姉のために命をかけて戦地に赴き、終戦後の今でも静かにそばに控え守りに徹している。
 だからといって、真に誠実だとはいえない。うわべを取り繕うのが得意な者もいる。



「なぜ、姉上の騎士になった?」
 アルフレッドが胡桃パンを投げてよこしてからというもの、あの男は隠れることをしなくなった。まるで餌付けをしたようだ。
「その必要があったからだ」
 大国の王に対してであろうと、男の態度は改まる気配もない。
「それは答えじゃない」
「詳しく言うと夜が明ける」
「簡潔に言え」
「必要があったから」
「簡潔すぎるだろう!」
 男は笑った。

 おしゃべりでもなくどちらかというと無口で、あまり表情もない男だが、思いがけず笑うことがある。微笑むだけでその美貌が際立つ。
 姉と並ぶと一幅の絵のようだと、アルフレッドは迂闊にも思ったことがある。

「おまえの口は神の失敗作だ」
「完璧な人間なんて聞いたことがないな。おまえはあるのか? あるなら今度、紹介してくれないか? その顔をぜひ拝んでみたい」
「……………………」

 ふと、男は真顔になった。
「コリィ」
 頭にくることに、この男までアルフレッドを幼名で呼ぶ。馴れ馴れしいうえに、呼び捨てである。
「じき、西から使者がくる。丁重にもてなし、そうそうに追い払ったほうがいい。でなければ丸めこむことだ」
 風見鶏が鳴いた。
「最初の子どもが大きくなるまでは、戦は控えろ」


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