このところ仕事が立て込んでいてゆっくり食卓につくこともなかったアルフレッドだが、やはり姉弟とともに食事は摂りたいと思った。味気ない野菜が珍味に感じ、肉が口の中で踊るようだ。
 だが、やはりあの男の存在は納得できない。

 食卓を一緒に囲むのは親族だけだと、アルフレッドは思っていた。幼い弟の世話人ならともかく、なぜ姉の騎士とともに食卓につかなければならないのだろう。

 最初は反発したアルフレッドだが、同席を認めないわけにはいかないことがあった。
姉がときおり、その皿には手をつけるななどと不可解なことをいうものだから、問い詰めた。すると姉は、その皿には毒が盛られているからだといい、毒素に反応して変色する石を見せられた。
石は姉の騎士が姉の身を案じて渡したもので、四人で食事を摂らないときも、姉の騎士はアルフレッドに出される皿を監視していたという。

「ねぇ、コリィ。嫌なことはたくさんあるわ。でもね、好き嫌いも生きているからできることなの」
姉に諭されては許さないわけにはいかない。あの男はたとえアルフレッドが許そうが許すまいが、同席する気でいるのだし。



 久しぶりに姉弟と同じ食卓について満足したアルフレッドだが、時間が早すぎたのか、夜には小腹が空いた。従僕に夜食を運ばせ、人払いをした。
 アルフレッドの好きな胡桃の練りこまれたパンと玉ねぎのスープ、葉野菜サラダ。どれも好きな料理で毎日のように口にしているはずなのに、質素に見えた。

 スープをひと口飲み、ふと思い出して胡桃パンをつかみ、大きな窓を開けた。
露台には誰もいない。
周囲は木々に取り囲まれている。枝に乗っても露台に手が届かないほどには遠く、適度な目隠しをしつつ侵入を許さない。
近くの木を目を凝らして眺めると、何かが動いた。
「何をしている?」
 姉の騎士は樹上にいた。
「木に登っている」
 相変わらず無礼な口の利きようだが、アルフレッドにはもう怒るだけの気力はなかった。
「木に登るのがおまえの趣味か?」
「そうだな」
「……………………」

 アルフレッドは無言でパンを投げつけ、窓を閉めるとカーテンもしっかり閉めた。


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