終戦後、出世の機会を失った男たちは、王家の未婚者に注目した。彼女を手にいれることは戦場で命をかけるよりも安全だが、敵将の首を獲るより困難なことだった。
姉の見合い相手の数は、両手足の指だけでは数えきれなくなった。

「また、断ったんですね」
「だって、おしゃべりが過ぎるもの。うるさいわ。うんざりよ」
 手元の縫いかけの刺繍に目を落としたまま姉は言った。
 毎日毎日、糸を布に絡ませていく作業がどれほど有意義なものかアルフレッドは知らない。姉は飽きもせず、貴族の子女たちも交えた教室を開いている。
 ひと針ひと針に、どんな思いを込めているのだろう。

 先の大戦は終わり、人々はしばらく争いを起こさずにいるだろう。平和が訪れ、戦いの傷跡が消え、平穏に飽きたとき、人はまた針を剣に替えるだろう。
そんなことは考えもしなかった幼い頃。アルフレッドはもう知ってしまったから、二度と『永久』という言葉を使えない。

「いったい、どんな男なら良いんですか?」
「知力と品位をもち、驕らず謙らない方。誠実で正直で」
「従順で貞淑であること」
 姉の言葉の先を繋げると、彼女は「そうよ」と言って笑った。
「そして妻を愛し、子を見守る男───理想の夫ですね」
 姉はアルフレッドとあまり似ていない顔で笑う。
人によってはよく似ているというが、アルフレッドたちは双子でありながらあまり似ていない。姉は明るく溌剌とした笑みを浮かべるのに対して、アルフレッドはこのところ、声をあげて笑ったことがない。

「よい方にいただかれるのは女の夢よ。あなたにはわからないでしょうけど」
「残念ながら、わかりません」
 アルフレッドは笑うしかなかった。この姉は、いったい誰に似たのか頑固だ。

ふと、姉は遠い目をする。
「ちゃんと覚えてくれているのね」
 忘れられるわけがない。
 誠実でもなく嘘つきで、飼いならせない野良猫。
 姉はその野良猫に、恋をしている。


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