馬鹿なことを考えている間に、イルスを乗せた箱馬車は城の背後に回りこむ。正門と同じくらい厳重な体制化にある裏門からはいる。

 箱馬車から降りたイルスを見て、門番たちが仰け反った。
(ホラ見ろ。絶対におかしい)
 彼らがこっそり鼻を押さえていることにイルスは気づかない。顔は華やかなのに身に付ける物のことごとくが地味で、今の格好が似合いすぎているとは夢にも思わない。
 顔がいいと言われ続けてはいるが、どういいのか、未だにわからないイルスだった。

玄 関先には、滅多に表に出ないという奥向きの女官が待ち構えていた。つい身構えてしまったが、彼女は案内を務めるという。



 ひんやりと冷えた廊下。
 長々とした廊下をありがたいと思ったのはイルスは生まれて初めてだった。このまま永遠に続いても―――いや、永遠に今の心理状態ではいられない。

 この廊下を歩いたのは、着任して一度きり。本来は皇族か、その許しを得た者だけが歩くことができる。
 主のおそば近くに仕えるにあたり、めったに行かないだろう場所をいくつも見せられた。すれ違う人物の質まで違うと感じたくらい神聖なひと時を過ごした。
 こんなことなら二度と歩きたくないと思うべきだった。
 今後、この廊下を夢に見るたびうなされるだろう。変態オヤジに追い駆け回された狩小屋より鮮明に、残酷に。

 数々の危機から救ってくれた兄よ、すまない。
 どうしようもないくらい崖っ淵だ。
 助けてくれと泣きつけない距離が二人の間にある。

 弟よ。
 早く嫁を貰え。
 なるべく早く。
 すごく早く。


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