胸焼けのしそうなくらい甘い果実だけの夕食。
いつも以上に念入りに身体を洗われる。実を言うと、イルスは香油を塗られるのは初体験だ。
ヌ ルヌルしていて気持ち悪い。常に何か臭っていて、自分の皮を一枚剥ぎたくなる、騒動に駆られた。
なんて物騒な品物だろう。
髪の毛先を少し切って整える。
イルスには大して変わらないように見えるが、召使たちには素晴らしい仕上がりに見えるらしい。その後、しつこく……いや丁寧に艶めくまで梳く。
手足の爪は磨かれて輝き、目元と頬には紅。
鏡 に映る自分は何様だろうか。今にも踊りだしそうだ。
職種が違うだろう? という言葉を飲み込むと、薄物を何枚も着るなら厚い生地の服一枚でいいのに、とつい別の愚痴がこぼれる。
「文句言わないの。伝統衣装よ」
何のだ。
いや、訊くまい。
玄関先に停められた黒塗りの箱馬車はいつもより小さな家紋を施してあり、いかにも忍んで行きそうだ。
「がんばって」
何をだ。
「いってらっしゃいませ」
やけに元気な声に見送られ、荷馬車の音楽を幻聴に聴きながら城へ向かう。夕焼けが背中に染み付きそうだ。
敷地としては城内といえる場所に屋敷をひとついただいているイルスだが、主の住まう城へは馬車で十分かかる。
ちなみに城内から出るには一時間、一番近くの街へはさらに二十分、戴いてから一度しか行ったことのない領地へはさらに二日間もかかる。
国は広い。
逃げてもよいだろうか?
:Novel 一覧
いつも以上に念入りに身体を洗われる。実を言うと、イルスは香油を塗られるのは初体験だ。
ヌ ルヌルしていて気持ち悪い。常に何か臭っていて、自分の皮を一枚剥ぎたくなる、騒動に駆られた。
なんて物騒な品物だろう。
髪の毛先を少し切って整える。
イルスには大して変わらないように見えるが、召使たちには素晴らしい仕上がりに見えるらしい。その後、しつこく……いや丁寧に艶めくまで梳く。
手足の爪は磨かれて輝き、目元と頬には紅。
鏡 に映る自分は何様だろうか。今にも踊りだしそうだ。
職種が違うだろう? という言葉を飲み込むと、薄物を何枚も着るなら厚い生地の服一枚でいいのに、とつい別の愚痴がこぼれる。
「文句言わないの。伝統衣装よ」
何のだ。
いや、訊くまい。
玄関先に停められた黒塗りの箱馬車はいつもより小さな家紋を施してあり、いかにも忍んで行きそうだ。
「がんばって」
何をだ。
「いってらっしゃいませ」
やけに元気な声に見送られ、荷馬車の音楽を幻聴に聴きながら城へ向かう。夕焼けが背中に染み付きそうだ。
敷地としては城内といえる場所に屋敷をひとついただいているイルスだが、主の住まう城へは馬車で十分かかる。
ちなみに城内から出るには一時間、一番近くの街へはさらに二十分、戴いてから一度しか行ったことのない領地へはさらに二日間もかかる。
国は広い。
逃げてもよいだろうか?
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