屋敷に戻ると、元許婚が召使に指示を飛ばしていた。
 嫁入りの決まった淑女は何かと忙しそうだ。決まる前は別のことで忙しかったようだが、名ばかりの許婚だったので口をつぐんだ。
 だいたい彼女には、蹴られ殴られ泣かされ続けてきたのだ。結婚しても恋心は持てないだろう。

 召使たちの手にはきれいに包装のされた箱があり、忙しなく運ばれていく。
「おかえりなさい。すぐに食事にしてちょうだい」
「何事だ?」
「髪も少し切りましょうね。爪も研ぐわよ」
 そういえば、彼女は昔から人の話を聞かない。

「今日はどの夜会にも行くつもりはない」
「当たり前よ。陛下に召されたんだから」

 召されてなるものか!

「あれは何だ?」
 帰宅した主を放ったらかしにしてまで運ばれて行く箱の群れ。いったい、何がはいっているというのか。
「衣装とか宝石とか、いろいろ必要でしょ?」
「相手先に運んだらどうだ?」
「それは女官長がやってくださってるわ。これは今夜の分」
「今夜?」
 いくら鰥夫生活が寂しいからといっても、あまりに性急だ。

「今日が式なのか?」
「そうね。初陣だもの、乾杯しましょ」
 彼女は手をたたいて執事を呼び、白い杯に白い酒を運ばせる。

「陛下とあなたの幸せを祈って」
 そっちか!
 ということは、この箱の群れはイルスのか!?


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