「あらやだ。心気臭い顔」
 開口一番から従姉妹は痛烈で、慰める気もないようだ。ガックリと首を折るイルスを見て笑う。
 問われるままにイルスは事の次第を話す。この従兄妹は主の敵になることは絶対にないという自信があるからこそできることだった。
 案の定、彼女は扇で口を隠し一層笑う。
「初恋の傷を抱えた主なんて大変ね」
 子守りでもしてるの? と聞えた。

「君はどう思う?」
「何が?」
「つまり、陛下は結婚なされたくないんだろうか?」
「知らないわ、そんなこと」
 イルスは従兄妹を見た。
「君も帝妃を狙っているだろう?」
「あぁ、もういいの」
「いい?」
「遠くの薔薇より近くのサボテン。わたし、結婚するの」
「わたしはまだ求婚はしていないよ」

 彼女が十三歳のとき、イルスと彼女の両親は二人を許婚にした。以来五年、従兄妹であり幼馴染であり友人であり許婚である彼女とは切っても切れない縁だ。
 ダーナ公爵になるため爺と少ない召使いとともに首都に赴くときも、当たり前のように彼女はついてきた。

「もちろんよ。わたし、トロイ男は嫌なの」
 彼女はイルスもよく知る鰥夫貴族の名を告げた。
「彼と結婚するのよ。私たちただの従姉妹で、許婚だもの。構わないでしょ?」
 だから、と許婚殿は顔を近づける。
「祝ってね」
 女性とはこういうものだっただろうか。
 振られたというのに怒りも悲しみも湧かない男と、振った男に祝えという女と。――男女間とはそういうものだろうか。


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