ここカフィダーナ帝国において、皇帝と並ぶほどの名声を轟かせる男がいる。

 その男は今、長い絨毯の敷かれた長い廊下を延々と歩いていた。
 心の中で(なぜこうもムダに長いんだ。いつか改築してやるっ)と思うこととは裏腹に、口元には笑みさえ浮かべている。連れて歩く親衛の騎士も主の前後で胸を張って歩いている。

 一行を見た者は立ち止まって廊下の隅によけ、頭を下げる。それはこの男の地位を顕している。
 煌びやかな衣装に身を包んだ孔雀のような貴婦人一行が男が来るのを待ち伏せていたようだが、それとなく親衛騎士に阻まれた。こんなところで足止めされて白粉攻撃を受ける気はさらさらないので、男は咎めなかった。

 男の足は大きな扉の前で止まった。近衛騎士が扉の護衛におとないの取次ぎをさせ、扉が開かれて次の扉の護衛に取次ぎをさせて扉が開かれ、戸布が押し開かれるまで呼吸と足を動かす以外しなかった。
 最後の部屋には男しかはいらなかった。

 部屋の主を見て、男は満面の笑みを浮かべた。薬臭い部屋に陽光が差し込んだようだ。
「じい。具合はどうだ?」
 大きな寝台には枯れ木が寝せられていた。いや、よく見ると際限まで干からびた老人だ。清潔な寝着にくるまれ、ふかふかの寝台に上半身を起こしている。
「ご機嫌麗しゅう、若。じいは、ご覧のとおりにございます」
「元気そうで何よりだ。だが無理に起きていなくとも良いといっているだろう。横になっていてもわたしは一向にかまわん」
 老人は折れそうな首を恐る恐る振る。
「閣下がお越しなれば、御足元にひざまずいて、お出迎えするのが礼儀なれば。しかしわたくしめは、自由の利かぬ身。せめてこうして、寝台に半身を起こして、お出迎えせねばなるますまい」
 主の言葉に感極まり、掠れた声を震わせて老人は言った。男は苦笑した。


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