殺気!

 本能的に感じて右に避けると、左腕を何かが掠った。

「……ニ、ニコ?」
「あ、だめだよー」
 何がだ。何がどうしたんだ。
 まず理由を陳べよ。すべてはそれからだ。とりあえず最初は言葉があったと聖書も言っていただろうが。

「じっとしてて」
 ニコの手には丸い銀色の……トレイ?
「何するんだ、それで?」
「叩くの」
 なんてストレートな。わかりやすくありがとう超迷惑。

「なんで俺がおめぇに叩かれなきゃならねーんだよ」
「お願いされたから」
「誰に?」
「言っちゃダメって」
 ほほぅ。
「言ったら叩かれてやってもいいぜ」
「言わなくても叩くよ」
 可愛くない! なのに目をくりくりさせて首を傾げて言うな! 仕草だけは可愛いじゃないか!

 睨みあい、じりじりと足を擦る。
「………………」
「……………………」
「…………………………」
「………………………………」
「……叩く理由は?」
「あとで教えたげる」
「…………叩いたあとは?」
 ニコは首をかしげる。
「うーんと……そう、なすびと一緒に川に流すの」
 なぜ茄子? なぜ流す!?

「あ、カヤさん!」
「なにぃ!」
 しまった。今朝の遅刻の罰にバックドロップ宣言されていた。危険だ、逃げなければ!
「ニコ、どっ!」

 ぐわぁーん


「あらー。何してんのあんたたち? どこか持ってくの?」
「うん。お盆だから川に流すの」
「そ。じゃ、うちの若い子連れていっていいわよ」
「わー。ありがとう」
「ありがとーじゃねーバカてめぇっうごっっ!」
 数秒間の気絶から目覚め、見事に肘鉄を食らう。

「あたしも水浴びに行こうかしら」
「行こう行こう!」
 薄れゆく意識の隅で、楽しげな声を聞いたような気がする。

 テルの夏はこうして始まった。


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