一人、静かになった庭で耳をすませる。
 鳥のさえずり。木の葉のこすれあう音。小川の流音。

 目を開ける。
 鮮やかな濃淡が広がる。ほとんどが赤かそれに近い色。添えられた葉の青さや茎のしなやかさを思い出す。
 優美に飛ぶ蝶。忙しない蜂。

 赤い煉瓦の囲い。背の高い木々が低木を囲み、茂みが小道を作り、花の畑が広がる。花のほとんどが薔薇で、それは歴代の当主たちによって守られてきた――薔薇園。

 涙の覆いを取り除くと、すばらしいものを手に入れた。
 美しい庭。
 大きな屋敷。

 初めて、庭を美しいと思った。

 アルフレッダは一歩進み出た。
 やることはたくさんある。屋敷を自分好みに直し、庭を整えなければならない。いつ来客があっても良いように、誰が来ても居心地良くしておかなければならない。
 兄が息抜きに来ても良いように。弟がひょっこり帰ってきても良いように。いつでも待ち構えていなければならない。

 それは屋敷の主であるアルフレッダの役目だ。
 泣いている場合ではない。

 美味しいお茶の葉を切らせないように注意して、甘いお菓子を毎日焼かせて、茶器は毎日磨かせよう。
 椅子はゆったりと座れるように少し低めの、広いもの。足を置くための踏み台は高さを変えていくつか必要だろう。クッションは新しい、柔らかい生地に変えよう。
 テーブルは木目の丸いのがいい。金箔で模様を描いたほうがいいだろうか。真っ白な皿が映えるようにさせなければ。それともテーブルクロスで飾ろうか。
 ポプリは薔薇と、緑を少し。いや、庭から花の香りをじかに取り入れたほうがいい。

 考えていくうちに、胸がドキドキとしてきた。

 もう一歩、歩く。
 ころん、と音がした。
 ポケットを探ると、白い包みがあった。なかには琥珀色の飴玉。ひとつ取り出して、明るい陽射しにかざしてみる。
 宝石のように輝いた。
 美しいものを見つけた女主人は晴れ晴れと笑む。

 昼下がりの薔薇園で。
 快晴の空のような瞳に、一筋の決意が走った。


――完――



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