くすぐったい。
 アルフレッダは頬をかいた。
 ふん、ふん、と息が抜けるような音がする。くすぐったい。

「起こすなよ」
 ぱち、と目が覚めた。
 目の前に大きなガラス玉が二つ……。
「ひっ」
 驚いて起き上がると、後頭部が何かにあたって鈍い音を立てた。背後で誰かがうっ、とうめく。振り返って見上げると、青年が腹を押さえて恨めしげに見下ろしていた。どうやらアルフレッダの頭が腹に当たったらしい。
「ご……ごめんなさ」
 言いかけて、気づく。なぜ自分は彼の足にしがみついているのだろう……たぶん、脚を枕に寝ていたのだ。そう思いあたると、恥ずかしさに顔が熱くなった。
「……ごめんなさい」
 ん、と青年はうなずいた。

 青年から離れて周囲を見ると、陽はずいぶん高い。
 頬がひりひりする。

 にゃーん、と足元から声がした。
 真っ黒な猫が一匹。
「かわいい」
 抱き上げると、ふわふわの長い毛並みが絹のようだ。
「おまえはどこからはいりこんだの?」
 なーん
 ふふ、とアルフレッダは笑う。

 頬を指が撫でた。ひんやりとしていて気持ちがいい。
「気が済んだか?」
「うん」
 アルフレッダが笑うと、青年も笑った。

 青年が立ち上がる。黒猫もアルフレッダの手をすり抜けて、青年の脚をよじ登った。
「帰るの?」
「あぁ」
「……また、来る?」
 期待を込めて訊ねる。


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