「おまえは菓子屋なの?」
 隣に座る青年に尋ねると、違う、と答えが返る。
「甘いものがすきなの?」
「身内がな」
「あ、お、お土産だったの?」
「いや、あまった分。作りすぎて、菓子箱にはいらなかった」
 アルフレッダの口の中で、飴がコロン、と音を立てた。
「おまえが作ったの?」
 そう、と肯定。

「料理人なの?」
 いや、と否定される。
「どうしてお菓子を作るの?」
「身内が好きだから」
「だからおまえが作るの? 男なのに?」
 青年が小さく笑った。
「厨房に男はいないのか?」
 あ、とアルフレッダは声を上げる。アルフレッダの大好きなパイを作る料理人は男だ。

 小さな袋のなかを改めて眺める。
 均一ではないけれどきれいな琥珀玉。匂うと甘く、嘗めると懐かしい。

「上手なのね」
「残念ながら、今回は火傷した」
 言われてよく見ると、青年の指先が少し赤い。
「痛くないの?」
「少しだけだったから、気にするほどじゃない」
「もういいの?」
 あぁ、と青年はうなずいた。

 しばらく二人は庭を眺めた。特に話すことがなかったからかもしれない。
 苦しい沈黙ではなかった。

「コリィがね、遠くに行ってしまったの。しばらく会えないの」
 そうか、と青年。
「帰ってくる、って約束したから、きっとだいじょうぶ。また会えるわ。
 コリィが帰ってきたら、あの赤い花の蜜を教えてあげるの。
 それから、二人でポプリを作るわ。枕もとにおく分と、持ち歩く分を作るの。袋はばあやが作ってくれるわ。
 庭のはしに迷路があるから、そこを探検しなくちゃ。何があるのかしら?
 あぁ、でも、コリィが帰ってくるまえに、花の名前を覚えなくっちゃ。まだ半分しかわからないわ。まえはお母さまが……」

 耳に、母の声が甦った。
 ほんの一瞬。
 それだけで胸に悪魔が訪れた。ぎゅっ、と締めつけられてちくりと爪が差す。
 嫌なやつ。


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