「いってらっしゃい」
 声が少しだけ震える。

「いってまいります」
 か細く、消え入りそうな声が約束した。

 行列の最後尾が走り出す前から、アルフレッダの頭の上で意味のわからない会話が繰り返される。
 次は、それまで、これから--どうしようかと考えている。もう弟は行ってしまったのに、大人たちは今からその価値を考えている。
 滑稽だ。

 兄の手が、アルフレッダの肩を強く掴んだ。



 花びらをつまみ、引っ張る。茎がしなって弓成るが、堪えきれずに花びらは引き抜かれる。一輪の花がもの悲しげに揺れる。
 指に残った花びらを唇に含み、吸ってみる。甘い、ような気がした。

「美味いか?」
 突然声をかけられ、アルフレッダはびくりと身体を震わせた。吸い尽くされた花びらが手から零れ落ちる。
 振り向くと、背後に昨日の青年が立っていた。

「……どう、して?」
「何が?」
「どうして、ここ、に、いるの?」
「壁に上って、木を伝ってはいったんだ」
 そんなことは聞いていない。

「そんなに美味いか?」
 アルフレッダは首を横に振る。青年は首をかしげた。
「腹が減ったのか?」
「なにも食べ」
「ほら」
 言い終える前に、目の前に白い包みが差し出される。反射的に手が出て、包みを受け取ってしまう。
「なぁに?」
「飴玉。一日一つだけだからな」
 アルフレッダは頬をぷく、と膨らませる。
「子どもじゃないわ」
 青年がきれいな笑顔になった。

 包みを開くと、琥珀色の飴玉が甘い芳香を放った。花に誘われる蝶のようにひとつ摘み、口に含んで転がすと、懐かしい味がした。


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