大股で寝台に歩み寄る。
しゃくりあげる弟の目からは大粒の涙が止まらない。
「泣くなと言ったでしょう?」
寝台にあがったアルフレッダの汚れたワンピースをつかみ、弟は言葉にならない声を発した。何を言いたいのか痛いほどわかる。
行きたくない。行きたくない。
どこにも行きたくない。
一人にしないで。
涙と鼻水でべたべたの弟の手を握りしめる。アルフレッダと同じ薄青色の瞳が悲しげに見つめてくる。
「いいこと、コリィ。よく聞きなさい。
おまえはわたしの弟よ。一人になんてしないわ。
お母さまといっしょ。身体がそばになくなるだけなの。
お母さまはとても遠くにいってしまわれたけど、ずっとずっと、わたしとコリィのお母さまなのよ。わたしとおまえがお母さまのことをお話しして、ずっと忘れなければ、お母さまはずっといっしょにいてくださるの。
まえにも、そう言ったでしょ?」
弟はうなずいた。
「わたしとおまえはこれから身体が離れてしまうわ。おまえもイヤでしょうけど、わたしもイヤよ。でも、ずっとわたしたちはいっしょよ。ずっとずっと、わたしはおまえといっしょなの。
悲しくなったら、胸の中のわたしに言いなさい。
嬉しいことがあったら、胸の中のわたしに教えてちょうだい。
わからないことがあったら、わたしといっしょに考えましょう。
わたしは毎日おまえのことを想っているから。おまえも、わたしのことを忘れてはだめよ」
何度も、何度も弟はうなずいた。
「そしてね、コリィ。
お母さまはもう、帰ってこれないほど遠くに行ってしまわれたけど、おまえはとなりの国に行くだけなの。だから、ちゃんと帰ってきなさい。
明日、おまえに『いってらっしゃい』ってわたしがいうから、おまえは『いってまいります』というの。そして、かならず、わたしのところに帰ってくるのよ」
二対の瞳が見つめあう。
優しかった母と同じくらい優しげな目元。暗闇の中で艶々と光る黒髪。丸い顎。少し厚めの唇。丸い鼻。
似ていないはずの顔のなかの部品は、一つ一つをみるとよく似ている。
母と同じ薄青色の瞳が、塩辛い涙の最後の一粒を押し出す。
「はい。ねえさま」
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しゃくりあげる弟の目からは大粒の涙が止まらない。
「泣くなと言ったでしょう?」
寝台にあがったアルフレッダの汚れたワンピースをつかみ、弟は言葉にならない声を発した。何を言いたいのか痛いほどわかる。
行きたくない。行きたくない。
どこにも行きたくない。
一人にしないで。
涙と鼻水でべたべたの弟の手を握りしめる。アルフレッダと同じ薄青色の瞳が悲しげに見つめてくる。
「いいこと、コリィ。よく聞きなさい。
おまえはわたしの弟よ。一人になんてしないわ。
お母さまといっしょ。身体がそばになくなるだけなの。
お母さまはとても遠くにいってしまわれたけど、ずっとずっと、わたしとコリィのお母さまなのよ。わたしとおまえがお母さまのことをお話しして、ずっと忘れなければ、お母さまはずっといっしょにいてくださるの。
まえにも、そう言ったでしょ?」
弟はうなずいた。
「わたしとおまえはこれから身体が離れてしまうわ。おまえもイヤでしょうけど、わたしもイヤよ。でも、ずっとわたしたちはいっしょよ。ずっとずっと、わたしはおまえといっしょなの。
悲しくなったら、胸の中のわたしに言いなさい。
嬉しいことがあったら、胸の中のわたしに教えてちょうだい。
わからないことがあったら、わたしといっしょに考えましょう。
わたしは毎日おまえのことを想っているから。おまえも、わたしのことを忘れてはだめよ」
何度も、何度も弟はうなずいた。
「そしてね、コリィ。
お母さまはもう、帰ってこれないほど遠くに行ってしまわれたけど、おまえはとなりの国に行くだけなの。だから、ちゃんと帰ってきなさい。
明日、おまえに『いってらっしゃい』ってわたしがいうから、おまえは『いってまいります』というの。そして、かならず、わたしのところに帰ってくるのよ」
二対の瞳が見つめあう。
優しかった母と同じくらい優しげな目元。暗闇の中で艶々と光る黒髪。丸い顎。少し厚めの唇。丸い鼻。
似ていないはずの顔のなかの部品は、一つ一つをみるとよく似ている。
母と同じ薄青色の瞳が、塩辛い涙の最後の一粒を押し出す。
「はい。ねえさま」
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