「ところで、おまえはどこから、はいってきたの?」
 青年は背後の木を指さす。
「壁を登って、あの木を伝って来たんだ」
 さきほど青年が飛び降りた木は背が高く、赤い煉瓦の塀の向こうに枝を張り出している。なるほど、これなら確かに門を通らず、外からも入ることができる。

「そとから塀をのぼって?」
「そうだ」
「無用心ね。切るように言いましょう」
「あの木を切るのか?」
「そうよ」
「そうか」
「いけないの?」
「いいや、別に」
 何か思惑があったのだろうか。何もいいはしなかったが、青年は木を見上げた。のけぞった喉に兄と同じようにこぶがあった。
 アルフレッダにはもう興味がないというように、広大な庭を眺めている。

「何を見ているのです?」
「庭を」
「わたくしとおまえでは、高さがちがうわ。何が見えるの?」
「庭」
「それだけ?」
「それだけ」

 そう言いつつも、青年は熱心に庭を見ている。やはり何か見ているのかもしれない。
 何を見ているのか、アルフレッダは知りたくなった。兄がお土産を見せてくれるのを先延ばしにしようと、アルフレッダから逃げているときのようで、胸がドキドキした。

 緑色の視線がふいに降りてくる。
「じゃあな」
 あ、と声を上げたときには、もう青年は木の上にいた。木陰から笑みを向けられて、アルフレッダはたまらず叫んだ。
「まって!」
 木陰から緑色の目が見下ろしてくる。
「……まって」
「何?」
「まだ……」
「まだ?」


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