飛び立った蝶に気づいて、黒色の茶席が動いた。

「……モンシロチョウだわ」

 黒色の茶席は今見ていた本に視線を落とし、その白い蝶の姿を確認してつぶやいた。本には様々な蝶の姿が描かれている。席を移した蝶の姿もある。

 青い瞳で蝶の姿を捕まえたまま、茶席は二本足で立ち上がって少女となり、駆け出した。



 下ろしたての帽子を片手で押さえて走るのは大変だ。それでも手を離すわけにもいかず、アルフレッダは懸命に蝶の姿を追った。

 息が切れて、つばを飲み込んだ。

「あっ」

 帽子が風に攫われた。つばを掴もうと伸ばしたては届かず、背の高い木の生い茂った葉に引っかかる。

 帽子は白く、さっきみた蝶のようだ。若草色のリボンが揺れている。



 アルフレッダは足元まで葉を茂らせた木に近づき、めいっぱい背伸びをする。腕をうんと伸ばしてみたが、帽子はもっとずっと上にある。

 登ろうとして木の葉を踏んでみるが、それはしなって靴と地面の間に挟まるだけだ。踏んでも踏んでも、ちっとも持ち上げてくれない。足を離すとしなった枝が持ち上がり、ワンピースのすそをあげた。

「もうっ!」



 ワンピースの裾を押さえて枝から取り上げると、アルフレッダの目にはもう涙が浮かんでいた。

「もう……」

 こぼれそうになるものを片手で押さえ、誰も見ていないのにうつむいてしまう。漆黒の髪が表情まで隠す。ワンピースを押さえていたはずの手は柔らかな生地を握り締めていた。

 下唇のぷっくり膨らんだのが震えて、小さな嗚咽が風に揺れる木の葉の音にかき消される。






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